自慢の夏美ちゃん。by詠子
夫から聞いた夢の内容はかなりショックだった。本当に夏美ちゃんがそう思っているとしたら?いや、夢の話しとはいえ、どうにも聞き流せない。
私にとって、夏美ちゃんは自慢の娘。詩を書けば、どこかに掲載され、絵を描けば賞状を貰った。勉強も少し頑張れば、簡単に上位を取った。お料理も、私は特に教えてないのに、仕事で忙しい私に代わってやり始めたら、すぐに上達したわ。それに、祐一のこともフォローをしてくれていた。しかし、雑巾まで縫わせたことは覚えていなかった。覚えていないということは、何気ないことのつもりだったのだろう。そんな思いをさせていたなんて…!
「…すぐに病院に、夏美ちゃんの病院に行きましょう!」
着替えようにも、手がもつれるようになって、うまく着替えられない。だんだん自分に対する苛立ちが増す。着替えられない自分に。夏美ちゃんがいなくなってしまうかもしれない不安に。
「落ち着きなさい。まだ夜明け前だぞ。」
「時間なんて関係ありません!」
息巻いてみせるものの、力尽きてクローゼットの前でへたり込む。
「夏美ちゃんが、逝っちゃう…!」
「だから落ち着きなさい。」
「何よ!石津さん、もう止めてくれないって言ったんでしょ?あなたが、あなたが…。」
私は、自分でもびっくりするような大声を上げて泣いた。子供時代でもこんなに泣いたことがあっただろうか?自慢の娘が逝ってしまうかもしれない。そうしたら私は何を生きがいにすれば良いの?祐一はアテにならないし役に立たないんだもの。苦労して育てた自慢の娘を逝かせてなるものですか!
私はは意を決して立ち上がり、着替え、化粧を済ませた。
「お前、気は確かか?」
「もうあなたには頼りません。私が、夏美ちゃんを引き戻してみせます!」
私は夫を置いて、バッグをひっつかんで階段を下り、ガレージへ向かった。
絶対に逝かせないわ。私は、自慢の娘に面倒を看て貰うって決めてるんですから。