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どうしてそんなことを言うんだ。by延夫

「…お引き取りください。」

遅れて病院に着いて、病室に入ろうとしたとき、聡君の声が聞こえてきた。誰に言っているんだろう?彼にしてはトゲのある言い方だった。そっと中を見ると、そこに居たのは聡君と詠子だった。詠子に言っていたのか?それにしても驚いた。どんなやりとりをしていたというのだ。

「どうかしたのか?」

声をかけて中に入ると、ホッとしたような様子の詠子と目が合った。そして、聡君は俺の方に向き直ると、口を開いた。

「夏美は僕の嫁さんです。いつまでも山川の家の便利使いにしないでください。」

今迄の聡君とは思えない、トゲのある口調に俺は言葉を失った。

「どういうことかな?」

とりあえず、平静を装って問いかけてみた。

「先日から見ていると、夏美自身のことを心配しているというよりは、いなくなったら困る、と思っていますよね。山川家の行事にしても、お義兄さんたちに何もさせずに、僕たち夫婦に旗を振らせていますよね。」

「済まない。祐一があてにならないばっかりに。」

祐一は、実に使えない奴で、つい仕事の早い聡君や夏美に頼っていたのだ。

「あてにならないのではなくて、何もさせようとしなかったんじゃないですか。」

「そのことは、本当に済まない。」

俺は言い訳もできないまま、聡君に詫びた。

「そして、夏美自身のことを心配できないのなら、お引き取りください。」

「ど、どうしてそんなことを言うんだ?自分の娘を心配しない親が、い、いるか?」

聡君の今までにないとげとげしい態度に俺はしどろもどろになった。聡君は会社では若手ナンバーワンの営業マンとして、俺の会社にまでその名声は聞こえていた。物腰柔らかに、相手にも損な気持ちを持たせることなく、しかし商談をバシッと決めることで有名なのだ。これまた凄い男をつかまえたものだと、鼻高々だった。婿に入ってもらったわけではないが、自慢の婿だ。その自慢の婿が、俺たち夫婦に敵意を見せているのだ。

夢の中の石津といい、自慢の娘夫婦といい、揃いも揃ってどうしてしまったというのだ。

「帰らないわよ!夏美ちゃんを放っておけないもの。」

「娘として、ですか?道具として、ですか?」

聡君は詠子に言葉を投げつけた。

「どうして、そんなことが言えるの?」

詠子は泣きそうになって金切り声をあげる。

「そうやって、夏美を押さえつけてきたんですね。」

「聡君、一体どうしたというんだ?」

怒りよりもショックに支配されてしまった。何がどうしたというのだ?

「夏美が目ざめたら、やり直すためです。その時に、夏美を道具として必要とする人間は必要ありません。お引き取りください。」

その言葉は、聡君の結婚の挨拶よりも俺を落ち込ませた。

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