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俺ができること。by聡

「それにしても、いやな夢だったな。」

子どもたちに見放されるなんて、信じられない。水でも飲もうとキッチンに降りていくと、まだ暗いまま、静寂を保っている。

あんな夢のあとで子どもたちと顔を合わせるのがなんとなく気まずいので、このまま、夏美のところへ向かおう。

「俺にできることは、何だろう?」

ハンドルを握ってつぶやいてみる。夢とはいえ、あんなことを言われたのは、堪えた。俺はそんなにダメなのか?子供の頃から、俺は一番を目指し、常にその地位を手に入れてきた。会社に入ってからも、営業成績の一番を目指して、生意気と言われ、出る杭として打たれながらも先輩を出し抜いてきた。“すごい奴”と形容する声が聞こえてきたりもした。



「今日はゆっくり休みなさい、っていうことなんじゃない?そういう日もあるわよ。少し休んだら、今日の悔しい気持ちをバネに、また頑張れる力を聡は持っているんだから。だから私は聡と結婚しようって、ついて行こうって思ったのよ。私も一緒に元気に生きていけそうだなって。」

仕事がうまくいかなくて、出張先から電話した時の夏美の言葉が急に思い出された。あの時の俺は涙目で「ありがとう。」と言って電話を切って、その後、一人で泣いたんだ。心に染み込んだ言葉だった。見た目はお人形みたいな夏美。食いしん坊で、ちょっと口が悪くて、よく笑う夏美。そんな夏美が実はそんなことを思っていたんだ、と驚いたし、感動した。夏美が嫁さんで良かったと、心から思った。本当に救われた。


俺は、そんな夏美に何をしてやっただろうか?養うこと以外、あっただろうか?俺のできることって何だろう?夏美のために、できること。子どもたちが、俺を許してくれるようなことって、何だろう?


考えているうちに、病院に着いた。駐車場から病室までの道のりがひどく長く感じた。

「夏美ちゃんがいなくなると困るの。祐一は頼りにならないし。ああ、どうしましょう!」

やっと病室の手前にさしかかったときに義母の声が聞こえてきた。こんな早朝から、聞き捨てならない言葉に思わずノックもせずに病室に入っていった。

「病室で大きな声を出さないでください。それに、夏美がいなくなると困るというのは、どういう意味ですか?」

「困るわよ。何かあった時に誰に相談するのよ?」

悪びれることもなく言う義母の様子に、俺の中で何かが弾けた。

「夏美は、俺の嫁さんなんです。お義母さんの道具じゃないんです。お引き取りください。夏美が聞いたら悲しみます。」

「なっ…!」

俺は絶句する義母をじっと見つめ、それまで思っていたことを初めて言葉にした。

「俺の嫁さんは、道具じゃありません。夏美自身を心配できないのなら、お引き取りください。」

俺のできること。俺が“良い婿”をやめること。良い子をやめること。

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