やり直そう。by莉乃
「なんだよ。追いかけても来ないのかよ。」
お兄ちゃんが立ち止まってつぶやく。
「やっぱり家族はどうでもいいんだな。」
また呟いて、再び歩き出す。
「本当にそうなのかな。本当にどうでもよかったら、赴任先から、帰ってこなくない?」
「こんな時に、家事の手順ばかり気にしやがって。そのくせ、何もやらないで病院にいるだけじゃねーか。」
私の言葉に鼻で笑って返す。
言われてみれば、お父さんは、やり方を聞いたりはするが、何もしていない。家事の勝手がわからないからと、逃げているように見えなくもない。
「いいか。俺たちでお母さんを連れ戻すぞ。お父さんはアテにならない。それから、もう山川家とあまり関わらないようにするんだ。」
「どうして?」
お兄ちゃんの言う意味がわからない。
「お母さんは、いつまでも山川家の便利使いだから。それに、山川の家の、ひいばあちゃんの葬儀の時、祐一おじさんの家はゆっくり座ってて、ウチのお父さんとお母さんが取り仕切ってたんだぜ。莉乃は、まだ小さかったから、知らなかったろうな。」
「知らなかった。それにしても、どうして祐一おじさんたちが動かないの?」
知らなかった。驚きだわ。
「理由は、知らない。けどおじいちゃん、おばあちゃんも、他の大人も、誰ひとりそれを注意してなかったんだよ。」
「変なの。意味不明。」
「だろ?俺もあの場で気になってたんだ。それに少し前にお母さんが言ってたんだ。だから、俺たちで連れ戻して、少しでもお母さんが楽に暮らせるようにやり直すんだ。」
やり直すんだ、なんて大げさな気がするなあ。
きょとんとしていると、お兄ちゃんが手を引っ張った。
「さて、話は、ここまでだ。急ぐぞ。」
お母さんが、お兄ちゃんには話して、私には話してくれなかったことがあったと知って、私はちょっとさみしい気持ちになった。私は、頼りない?お兄ちゃんの方が大事?お母さんは、私が質問したら、言葉を濁したりせず答えてくれるのかしら?川のほとりを見渡していると、不安な涙で視界が歪む。お母さんに会いたい。私にも平等に話して、ってお願いしたい。でも何よりも、言いたい。
「お母さん、帰ってきて!」
「おい、なんだよ!」
お兄ちゃんの声で我に返った。私はとても大きな声で叫んでいた。その声に道が開けて、お母さんと誰かが話している姿が見えた。
「お母さんだ!」
夢中で走る。お兄ちゃんも後から走る。お母さん!お母さん!帰ろう。帰って…そう、お兄ちゃんの言うように、“やり直”そう。




