悪役令嬢とニンジャ
最近流行りの悪役令嬢小説を読みながらニンジャ見てたら頭の中で悪魔合体した作者の暴走した『初投稿』作品です。
生ぬるい目で見ていただけると幸いです。
ドーモ。ミナ=サン。アクヤクレイジョウデス。
…うん、もし見ている人がいたら意味が分からないと思う。
だから少しだけ説明する時間がほしい。今、先輩方三年生達の門出の場で、物語のクライマックスで、乙女ゲームのヒロインにとっての最大の見せ場であるであろう場面で、婚約者に婚約破棄を言い渡されるはずの、乙女ゲームの悪役令嬢のポジションであるはずの私が絶望するはずのイベントが、私にとってそう悪くない結果に収まったはずなのにどこか納得がいかない私の…そう、愚痴のようなものを、誰でも良いから聞いてもらいたい。
どうせ聞いている者も奴らぐらいしかいまい。人生丸ごと語ってしまおう。
あれは私が六歳の時だった…
当時私は大層な我が儘娘で恐らく我が悪役人生で最も素で悪役していた時期だっただろう。良いとこの息女の癖に気に入らない使用人に対しては嫌だ、嫌だ。と喚き散らし、欲しいおもちゃが手に入らなければ号泣し、と、とても可愛らしい、されど真っ当な悪役ぶりであった。
しかしそんな私にも転機が訪れる。そう、テンプレイケメン婚約者である。その小学生の癖に整いまくったイケメンぶりを見たとたんに私の頭に稲妻のように走る衝撃があった、何を隠そう前世の記憶である。
もう使い古され過ぎてテンプレの一言で説明できるような展開で思い出された前世の記憶では、目の前にいる婚約者殿は超がいくつも着くような大企業のご子息であり、記憶の中の乙女ゲームに出てくるキャラクターの一人だったはずだ。
割と何でもありだったこのゲーム、魔法や神様が出てくる現代が舞台のゲームなのだがヒーロー達の性格や能力はまさしく王道。熱血生徒会長やら腹黒副会長やらクールなエリート魔法使いなどなどが一人のヒロインによって攻略されていきハッピーエンドを迎えるというまさしくテンプレな乙女ゲームだ。
そしてこの乙女ゲームで一番人気を博していたのが何と悪役令嬢その人である。…まさかの今生の私である。
この悪役令嬢、基本はお嬢様な性格でヒロインに婚約者を盗られそうになった事の報復を行うのだがヒロインが選ぶルートによってまさかの変幻自在ぶりでラスボスを務めるのだ。
ヒロインに決闘を申し込み負ければ潔く去る事もあれば、世界を滅ぼす大魔王になったり、はたまた婚約者に愛想を尽かし異世界で勇者になる等のぶっ飛んだその後を歩む事もあるという悪役令嬢という役柄に全力でケンカを売っているようなキャラクターであった。
そんな常識はずれな悪役令嬢に一般的なウーマンだった私がなれるだろうか?…なれる訳がない。
確かに今生の身体は彼女の物なので魔王にも勇者にもなれるのであろう、だが世界を左右するようなキャラクターの最も恐ろしいところは強大な力などではなくその精神姓そのものだろう。どれだけ大きな困難に直面しようと、例えその強大な力が失われようと、前に進めるその心の強さこそが本当の強さなのだと思う。
一般人だった前世の私がどう死んだかは分からないし前世の家族の名前さえも分からないが、様々な知識を得てしまった今の私が思う事はたったひとつだ。
ーふつうがいいです。
これだ。
そんな世界を左右するような人生じゃなくもっとのほほんとした人生を送りたいのが記憶を得た私の考えである。
だが所詮私は小学生、たしかに今生の両親は良い所は褒め悪い所は叱ってくれるような私の偏見に満ちた観点だが良いとこのお家にしては良い両親である。あるが、今のワガママ娘の私が何を言った所で親達の話で纏まった婚約は解消されないであろう。
しかも相手は御曹司であり熱血野郎だがはたしてその妻に普通はあるだろうか?いや、無い!
私は知っている、この御曹司、冒険が大好きでこの人物のエンディングの八割は冒険に出ている。それで良いのか大企業の御曹司。
だが私は普通が良いのだ、波乱ではなく平穏が良いのだ。
しかし私が知っているエンディングでは彼女、いや、私が普通の道を歩むようなルートは無い。そう、無いのだ。無駄にチートな能力を生かしあらゆる困難な道のりを何事も無いかのように乗り越え、ラスボスとして立ちはだかる。そのイケメンすぎる生き方になぜ彼女の攻略ルートがないのかとの苦情が最も多かったと言うほどだ。
だからこそ私は自分の為に、のほほん人生の為に知識には無い新たなルートを探さないといけない。しかし両親に迷惑はかけたくない、そこで考えたのが悪役令嬢おなじみのパーティなどでの婚約破棄宣言ルートだ。なんとこの悪役令嬢、ゲームではテンプレもいいところのこのルートが無いのだ。つくづく悪役令嬢らしくないキャラである。
だがしかし、上手い事相手から破棄を言い出させればいける!舞台は現代だ、中世のように婚約破棄されれば終わりな訳ではない、さらには彼らには魅力的なヒロインが現れ向こうが先に婚約破棄を宣言してくれるのだ、ならばその機を待てば良い。その後に普通の恋愛を経て…などと考えていた私の浅はかな企みは高校生活初日に粉微塵になってしまった。
様々なテンプレイベントを体験したが、お嬢様の皮を被り、熱血くんとの関係もほどほどに、中学卒業までを無難にこなした私は高校生活初日にその後が大きく変わった、奴との遭遇を果たしたのだ。…果たしてしまったのだ。
それは婚約者である熱血生徒会長の演説や今年度主席のクール魔法使いの演説があった入学式が終わった後クラスでの自己紹介の時の事である。私の無難な自己紹介が終わり次は私の後ろの人の番だった。しかし私が見た限り後ろの席は空席だったから、飛ばしてその次の人の自己紹介になると思っていた。しかし
「ドーモ。クラスメイト=サン。ハットリデス。」
後ろから聞こえてきた声に思わずアイエエエなどと叫ばなかった私のお嬢様っぷりを褒めてほしい、クラスの全員が思わず振り返り見てしまった真ん中一番後ろの席に奴はいた。頭を黒い頭巾で覆い、黒一色の服の上から制服を着ているナマモノが、机の上に立ってお辞儀しているのだ。
『『『忍者だこれぇー!』』』
恐らく最も速く心からの声が一致したクラスだっただろう。だかしかし、これだけなら、これだけなら奴との関係は変わったクラスメイトで終わるはずだった。…そう、だった。過去形だ。
深々と下げた頭を上げた奴はおもむろに瞬間移動すると、私の足元に片膝を着いた状態で現れた。うん、意味が分からないと思う。大丈夫、私も分からなかった。あまつさえその後の発言が
「お嬢様、過去の御恩に報いるため不肖ハットリ、御身の元に参上いたしました。コンゴトモヨロシク…」
これである。
訳が分からなかった。
気がつくと忍者は消えており、まるで夢かと思うほどに痕跡がなかった。恐る恐る後ろを向くと確かに気配を感じる、しかし姿が見えない。意味が分からない、何度だって言おう、意味が分からない。
その後自己紹介は続けられたが恐らく皆が皆一年間を共に過ごす級友達の名前のほとんどを覚えていなかったであろう。だが私にとっての受難はその日から始まった。
元々私が立てていた計画は一年間の印象操作だ、ゲーム通りならヒロインが来るのは二年次の春。その時にこの学校に転校してくるはず、それまでの間に悪役令嬢っぽさをアピールする事、そして人脈を広げることが目的だった。いくら悪役令嬢っぽく振る舞おうとも人脈の大切さを知識としてだが知っている自分としてはできるだけ沢山のコネが欲しかった。それに加えてヒロインが来た時に意地悪してもおかしくないと思わせる印象。この二つを目的としていた。…また過去形である。
初日にあれだけインパクトのある事件があったのだ、私のイメージは悪役令嬢などでは固まらなかった…
誰が呼んだか『忍者の主』である。
これに私は頭を抱えた。忍者の主ってなんだよ…
目的の片方である人脈に関してはあの忍者が原因で誰も話しかけてこない。というより忍者も話しかけてこない、どういう事だ。
聞き耳を立てた所によると婚約者殿でさえ軽く避けているらしい。おい、幼馴染み、もう十年近く付き合いがあるんだから助けてくれ。
う、うんポジティブだ、ポジティブに行こう。
忍者の主なんて実に暗躍しそうな称号じゃあないか、うん、そ、それに忍者も特に悪い事をしている訳ではない、ない、はずだ。
あぁ、この肉体が無駄にチートボディをしていることが恨めしい、忍者の姿は全く見えないが気配を感じられるせいでそこにいることが分かってしまう。流石にプライベートな所には入ってこないようだが、学校内ではいつも気配を感じてしまう。
あぁ、ダメだ、ポジティブにいくんだ。さぁ一年、一年頑張ろう。
一年だ、やっと、やっと彼女が、ヒロインが来るんだ、この一年色々な事がありすぎたが、忍者が増えたり、異世界に召喚されたり、呼び名が忍者の勇者になったりしたが大丈夫だ、あの魅力的なヒロインなら、ヒロインなら忍者さえも虜にしてくれるはずだ。そして私から忍者共を引き剥がし、私をこの学校から追放してくれるはずだ。
新年度の朝のHR、私が待ち焦がれた瞬間はやって来た。
「はーい、静かに。新たな年度が始まりお前らは二年生になる訳だが浮かれすぎないように。それと今日からこの学年に新しい仲間がくるので軽く紹介しておく、おう、入っていいぞ。」
先生の声に可愛らしい声で返事が返ってきた後、扉が音を立てて開く。
トコトコと歩いてくる姿は男性の庇護欲をそそり、クリっとしたつぶらな目はキラキラと輝き、その愛くるしい姿は男女問わず可愛がりたくなるであろう、美少女が、そこにいた。
「今日から、この学校でお世話になりますーー」
挨拶を聞くこともそこそこに思わずガッツポーズを決めてしまうほどに私は喜んだ。ぃよし!見た目は抜群!後は性格だがそのあたりは玉の輿にのれると知ればなるようになるだろう!問題は忍者共を持って行ってくれるかだが…いくら席替えしても、学年が変わろうと必ず後ろの席に居る忍者ハットリの気配を探ってみる。…ん?何かえらく気配がはっきりとしてるな、珍しい。
気になって後ろを見てみると思わずといった様子で忍者が立ち上がっていた、これは…キタか!?
「カエデ…カエデなのか!?」
ん?
「その声は…お兄さま!?」
え?
「へへっこれ知ってるぜ運命の再会って言うんだろ?俺は詳しいんだ」
忍者Fうるさいややこしいからだまってろ。
「アッハイ」
その後も妙な展開は続く。
「あぁ、まさか会えるとは思いませんでした!あれほどカラダニオキヲツケテ!と送り出したお兄さまが帰ってこない事に私は…私は…!」
「…すまない、だが私は今の主に命を救われ、そして忠誠を誓っている。この命尽きるまでお仕えする所存だ。」
重い、重いよ。ていうか私命なんて助けた覚えないよ。ねぇ、聞いてる?君ら忍者ってほんとに人の話聞かないね?
「…っ!お兄さまの命を!?そ、そんな大恩人の方がここに!?」
「あぁ、彼女が私の主だ、私が一生を賭すと決めた、最高の主だ。」
「…まさか、まさかこれほどの御方が、今の時代にいらっしゃるなんて、信じられない…」
はぁーあ!あー!緑茶がおいしーなー!誰か忍者共引き取ってくんないかなー!!
「お嬢様、兄の命を救って頂いた御恩を返すため、このカエデ、心命を賭してお仕えいたします、コンゴトモヨロシク…」
「同じくハットリ、妹との再会を感謝し、更に精進致します、コンゴトモヨロシク…」
「「「「「我ら傘下忍者一同同じく永遠の忠誠を!!」」」」」
アー!アー!聞こえなーい!!聞こえなーい!!!
「どうでもいいがそいつら1限までに何とかしとけよお嬢様」
先生…酷いや…
あの事件から一年、やっと、やっとだ、婚約者殿の卒業式、そしてゲームでのエンディング、本来ならここに到達する頃にはラスボスである私は倒され、この卒業式はお祝いイベントのようなものだが私にとっては山場も良い所である、この一年も殊更に濃い一年だったが何とか乗り越えた、乗り越えられた。
未来に行ったり、神殺ししたり、忍者が分身したりしたが私は問題ない。無いったら無い。
婚約者殿の件だが忍者共に調べさせた所、どうやら妹忍者以外にも転校生がいたようで見た目は…妹忍者と比べてしまうと流石に可哀想だが十分に可愛らしい容姿をしていた、しかし彼女の本当に凄い所は話術にあったようで、婚約者殿を筆頭に学校の有力な男子達は軒並みノックアウト、彼女に名前を呼ばれたことがあるかどうかで派閥が出来る程の人気があったらしい。…デジャヴュを感じる過去形である。
そう、また忍者共だ。
私の最終目的は、テンプレ婚約破棄からの学園追放を『される』事である。その後特に変わった所の無い高校、大学にでも通って普通に青春できれば何も言うことは無い。
…察してくれた人もいるかもしれない。
そう、今この卒業式の場に婚約者殿とその相手さん、ついでに彼女にあんまりにも熱を上げすぎた連中はいない。
あぁ、婚約者殿達は実に理想通りにこの卒業式での婚約破棄を計画していたらしい。他の婚約破棄されかけた女性達の事は良く知らないが、私の最終目的は達成寸前までいったのだ。
しかし、相手が、悪かった。忍者共は人の話を全く聞かず、かつわりと勝手に動く奴らだが…彼らの、その、忠誠心だけは、えー、うん、信頼するに、値する。だから、今回の事もきっと、私の事を心配してやってくれた事なのだろう。
結果としては婚約者殿…いや、元婚約者殿達には実家からそれなりのお仕置き。それぞれの令嬢家に謝罪と令嬢達が希望するのならば婚約の解消。それ以上はそれぞれの家のお話である。
これが、すっきりしなかった私の野望の顛末である。
…あー、その、愚痴に付き合わせて、悪かったね。
「…いえ、私たちは貴女様に心底惚れ込んでおりますので」
「それほどの信頼を受けていられることこそが何よりの褒美です」
…ありがとうね、じゃあ行こうか、次は最高学年だ、きっと何か大事件が起こるよ。何かあったらお願いね。
『『『『『『『『『『『御意!!』』』』』』』』』』』