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少女たちの物語

孤高の少女と影と運命

作者: 雪野つぐみ
掲載日:2015/02/20

 2月の街、あたしは雑貨屋に向かっていた。

 世間はバレンタイン。最早チョコの交換会と化した謎の行事だ。

 正直言って、ふざけてると思う。人が撲殺された日にチョコを渡して愛の告白をすること自体ふざけてるし、チョコの交換会なんてメーカーの戦術に嵌まっているにすぎない。

「そうだろう、あかり……?」

小さくつぶやく。その声は雑踏に紛れて誰にも聞こえない。

 『そうね……本当にくだらない』

小さな声が頭に響く。声は続ける。

 『孤高の貴女には、そんなイベント自体くだらないでしょう?茜』

「そうだな」

『あんな、真実を知らない浮わついた人間とは違……』

あかりの言葉が途切れる。

「あかり?」

『茜、すぐに離れましょう。悪いことが起きるわ』

こういう時は、素直に従うのが一番。あかりの勘はかなり当たるからな。


 目当ての雑貨屋とは反対方向。

 歩き疲れたあたしは、駅前の広場でベンチに座っていた。

 『茜、あの店のチョコ可愛いわね』

 あかりもチョコ食べたいのかよ。意外……ってかどうやって……

『ちょっと茜、無視?人多いと無視?』

今あかりの言葉に答えたら変な人だろ。

 店のウインドウを覗きこむ。確かに可愛いチョコがたくさん並んでる。

 少しだけ、買うかな……本当に少しだけ。


 あたし、菓子屋って全然行かないからな……何買おうか……

 ここは量り売りの店だった。

 チョコやグミやクッキー……やっぱり今はチョコがメイン商品みたいだ。

 「あれ、初原さん?」

後ろから声をかけられた。振り返ってみると、ショートヘアの少女がお菓子を入れる袋を持って立っていた。

「えっと……ごめんなさい、誰でしたっけ?」

「同じクラスの高原です。忘れたの?」

「……ごめんなさい」

『はあ……』

あかりが分かりやすくため息をついた。いや、息してないけど。

 「初原さん、よくこういうお店来るんですか?」

「いや、初めてだけど……」

「そうなんですか」

『茜、さっさとチョコ買って帰りましょ』

あかり、あたしまだ雑貨屋行ってねーぞ。

『茜、冷たいな……』

あかりは放置して、お菓子を袋に入れて量りにのせる。

 チョコとグミとキャンディ、あわせて234グラムか……ちょっと微調整する。

 合計300グラムで六百円だった。


 『茜、もうあかり泣くよ?泣いちゃうよ?』

「お前な……そもそもチョコどうやって食べるんだよ」

『茜が味わえばあかりにもわかるの』

 いまいちよくわからん……チョコを一つ口に入れる。甘い。

 『バレンタインはくだらないけど、チョコは悪くないわ』

「あかり……あたしと感覚共有するなら直接考えてること読むとかしないのか?」

『茜の声好きだもん』

 あかりはこういうところ本当に困ったやつだ……


 あかりはあたしの心の中のもうひとりの心に近い。あたしとは違う考えをするし、普段はお互い心を覗くこともない。

 イジメにあって引きこもってた時に助けてくれたのがあかりの存在だった。あかりが現れたのもその頃だ。

 「帰るか。なんか今日疲れた」

『そうね……

 茜、あの子とは深く関わらないほうがいいわ』

「なんでだよ」

『あの子、不幸を撒き散らす体質みたいなの。近くにいたら茜も巻き込まれるわ』

 どうもあかりは高原さんが気に入らないらしい……なんでそんな変な嘘ついてまで遠ざけようとするんだ?交友関係はあたしの勝手だろう。


 次の日の朝。

 学校行くまで時間があるしニュースでも見てるか、とテレビをつけた。

 「今日未明、交差点での事故によりトラックが民家に突っ込み、民家に住んでいた高原由香さん36歳が亡くなり、民家に突っ込んだトラックを運転していた田中俊幸さんと民家に住んでいた由香さんの娘希美さんが重傷―」

 高原さんの家に……トラック?昨日笑ってた彼女が重傷?

 『なんで……』

 あかりも驚きを隠せない様子だった。


 学校からの帰り道、あかりに聞いた。

「昨日あかりが言ってたのは、このことか?」

『だから不幸を撒き散らす体質って言ったじゃない。しかもあれ、難ありよ。一回じゃすまないわ。なんで死ななかったのかしら?』

「あかり、言い過ぎだぞ。こんなこと言っちゃ悪いかもしんないが、あたしは高原さんだけでも命が助かって良かったと思ってる」

『……』

 あかりは黙った。そしてさも納得いかないと言うように、『とにかく、あんまり関わったらダメよ』とだけ言った。

 あかりはなんで高原さんをそんなに嫌うんだろう?

 本当によくわからない。


 家が高原さんの入院してる病院から近いから毎日プリントや課題を届けることになったから、接触は避けられない。そのくらいならあかりもとやかく言わない。仕方ないってわかってるからな。

 一旦家に帰って、高原さんに持っていく荷物と財布を持って家を出る。

 今日は二月十四日、バレンタインデイだ。いつものあたしなら「くだらない」と気にも止めないイベント。

 けれども何故か今年のあたしは、「チョコ、買って行こうか」と思ったんだ。

 コンビニで板チョコを買って、高原さんへの荷物に入れた。


 「高原さん、初原です」

 面会もあっさりオッケーされて通された個室。高原さんは静かに窓の外を見ていた。腕や足に巻かれた包帯が痛々しい。

 「初原、さん?」

「先生が、プリントとか持ってけって……どうしたの?」

泣いていた。

「怖かった……!お母さん……目の前で……」

 目の前で母親が轢死体(ぐちゃぐちゃ)になったのか!?そりゃ、誰でもショック受ける……

 先生や看護師さんが「心に深い傷を受けている」と言った理由がわかった。

 『茜!?やめなさい!』

 「……辛かったですね。怖かったですね。“辛い”とか“悲しい”とか、あたしでよければぶつけて。受け止めるから」

 高原さんを抱きしめて、そう言った。

 あかりがやめろとわめく。無視して続ける。

 高原さんは泣きながらその時の様子を話した。流れ込む情報が、“その光景”をあたしの中で構成し再現させる。そこにあった恐怖、衝撃、悲哀……それらをあたしに理解させる。

 あたしは高原さんが泣き止むまで、ずっとそうしていた。

 『やめなさいって言うのに……』そう言い続けるあかりは無視した。


 「ごめんなさい……いきなり泣き出して……」

「いいよ別に……気にしないし」

 半泣きのまま謝る高原さんにそう言って、荷物を出す。

 「先生からの預かりもの。課題とかできそうですか?」

「ペンは持てるからできると思います」

「あと、これ」

 さっき買った板チョコを差し出す。

「チョコ……?」

「今日は二月十四日(バレンタイン)でしょ?お見舞い代わりです」

 ……我ながら何いってんだ……

「……ありがとう。大事に食べます」

高原さんはそう言って、ぎこちなく笑った。


 外傷は脳挫傷とガラスや瓦礫が当たった傷だから大したことはないって言ってたけど……大丈夫かな。脳挫傷は後が怖かったりする。

 帰り道、あかりは完璧に拗ねて黙ってた。

 帰ったら受験勉強しなきゃな。本当は高校受験が一ヶ月後なんだ。


 三日後。

 「あかり、いつまで拗ねてるんだ」

『……茜がデレるまで』

「なんでだよ!」



こんにちは…かな。雪野つぐみです。

今回のお題、「バレンタイン」ということで、ちょっとゆりゆりしているかもしれないふたりのお話です。

一応今上がってるふたりの話の中では時系列一番最初かな?


バレンタイン、みなさんはチョコあげましたか?雪野は世話になった人たちにチョコケーキ配ってました。失敗作でも食べてくれるみなさんありがたやー。

最後に、今年世話になり失敗したケーキを食べてくれた人たち、ここまで読んでくださった皆様、共同企画者の文房群様に、感謝をささげます。

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