Grimm Hnsel und Gretel
ヘンゼルとグレーテルのグリム童話をよんで続きがほしくなったため、勝手に書いてしまいました。原作を愛している方、もうしわけありませんっ!
バッドエンドです!すみません!
昔々、飢饉に襲われた家族は子供達を山の奧深くまで連れていき、捨てました。捨てたれた可哀想な子供達は森の中を歩き回った末におかしの家を発見し、その家の主に歓迎され食事をして眠りました。しかし、その家の主は人肉を好んで食べる魔女だったのです。魔女は夜のうちに兄を家畜部屋に連れていき、閉じ込めてしまいました。そして、夜が明けると魔女は妹を叩き起こし奴隷のように兄を太らせるための料理を作らせました。
そして、数ヵ月がたち、魔女は兄妹を食べることにしましたが、妹の抵抗の末に魔女は殺されてしまいました。妹は兄を救い、魔女の家から宝物をたくさん奪って兄妹揃って森を歩き、家に帰ることができました。
兄妹が帰った家には母親はいませんでした。
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「ねぇ、お兄ちゃん」
「どうしたの? グレーテル」
「前に、二人で暮らせたら良いのにね。って話したの覚えているかしら?」
「ああ、覚えてるよ。懐かしいな」
「…………ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「お父さんを殺してしまいましょう?」
「え?」
「お父さんを殺してしまいましょう」
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僕とグレーテルが、魔女を殺して父親の元に帰ってきてから、六年。この辺の大陸ではまた、飢饉が襲ってきていた。魔女の家から奪ってきた宝石も底につき、食事も小さくひび割れたパンを一日に一度食べる程度しか出来なかった。
あの時の母親と同じような考えが浮かんできたりして、皮肉に口角を歪ませながらも、ヘンゼルと父と共に必死に働き、どうにか食い繋げていた。
しかし、底が見えてきた食料を保管している場所を見たヘンゼルは僕の腕にすり寄ってきてこう、耳打ちをした。
「お父さんを殺してしまいましょう」
と。
僕は驚愕した。
これではまるで僕らの母親みたいではないか、と思った。魔女の家から宝物を沢山盗んできたときにしていた顔、もしくは、母親の顔、もしくは、魔女の顔と同じ顔をしていた。
僕は、それはいけないと思い、グレーテルに遠回しに母親と同じようなことをしようとしているのだと説明をした。
それをきいて、グレーテルは笑い飛ばした。
「別に、捨てるなんて言ってないじゃない? 殺して食べるの。魔女のおばさんだって言ってたわ。昔は飢饉の時に人の肉を食べたって」
「でも、それは」
「私達を一度捨てたような父親よ? 殺されたって文句は言えないはず」
グレーテルはくすくすと笑った。
目の前がぐるぐると回った。魔女の顔に言ったときからたまに変な言動をするようになってしまっていたグレーテルを心配していたけれど、まさか、ここまで壊れてしまっていたなんて。
僕が暗い闇に囲まれた家畜部屋に閉じ込められているうちに、僕以上に壊れてしまっていた。
「グレーテル………」
どうすれば、良いのだろうか?
グレーテルはいつからこんな風になってしまったのだろうか? 魔女に奴隷のように扱われたとき? 否、違う。母親がいなくなったときからだ。父親から母がいなくなったと聞いたときにしていたグレーテルの納得したような顔が忘れられない。あの時、グレーテルは何に納得をしたのだろう。
「そうよ、魔女のおばさんと同じように竈にいれて焼いてしまえばいいんだわ。久しぶりの肉よ? 嬉しいでしょう? お兄ちゃん」
「え、あ……うん」
「そしたら、一緒にずーと、ずーとずーと、私たち二人で暮らすのよ」グレーテルは楽しそうにくるくると回った。「今夜。今夜、決行しましょう!」
僕は、狂喜に走ったような笑顔のグレーテルに何もいうことが出来なかった。
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「竈の中を見てくれない?」
「竈?」
「パンが入ってるのだけど、今、スープを混ぜていて手が空いていないのよ」
「自分でも見れるだろう?」
「お願い、早くしないとパンが焦げてしまうわ」
「……はぁ、解ったよ」
「…………」
「どうした?」
「いいえ、なんでもないわ。ありがとう。お父さん」
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夜。
食卓に僕は、放心状態のまま座っていた。グレーテルは、せっせと、火を炊いている。
ふと、家の扉が開き、外から薪を沢山持った父が現れた。父は、町で売れなかったのであろう薪を床にぶちまけて僕の正面にため息混じりに座った。そして、竈に火がついていることに疑問を覚えたのか、父はグレーテルになぜ、火がついているか質問した。その質問をきいて、グレーテルは笑顔で振り向いた。
「今日は、パンを焼こうと思っただけよ」
パン? と父が聞き返したが、グレーテルは何も答えなかった。そして、しばらくした後、グレーテルはふいに立ち上がって、竈の上に置いてあった鍋の中をかき回した。いい香りがするが、中身は野菜のくずが少しだけ浮かんでいるだけのスープである。
確かに、このままでは三人とも餓死をすることは目に見えている。一家心中も夢ではない。昔の考えだったらグレーテルが言っていることは間違いではなかったのだろう。
そこらじゅうに餓死した死体が転がっていて、最初は煙たがるが、そのうち、その死体を貪り食うようになる。
そんな話を、魔女から聞いたと、以前グレーテルから聞いた。
「そうだ、お父さん」
グレーテルは笑顔で振り向き、父の目を優しげな笑顔で見つめた。
僕は、思わず目を背ける。
止めるべきなのだろう。父をここで殺したりなんかしたら、グレーテルは本当に駄目になる。魔女になる。母になる。
父とグレーテルが何か会話をしているが何も聞こえない。きっと、パンが焼けているか竈の中を覗いてくれない? みたいなことをグレーテルが父に言っているのだろう。父は意気地無しで優しい人間だから頼みごとをされると断れない。目の前に座っていた、父が席から離れて竈の方へ向かっていった。
もう駄目だ。
お仕舞いだ。
終焉だ。
父が、竈の中を覗き始めるとグレーテルはその背後に立った。何かを不振に思ったらしい父が振り返り何かをいうが、グレーテルは笑顔で返事をする。そして、竈の中をしばらく見ていた父は振り向いて、パンなんかない。と言った。………そりゃそうだ。僕らの家にパンを焼く小麦粉なんてないんだから。
「ふふふ――ふふ。いいのよ」
グレーテルは不気味に笑いながら父の背中を押した。父は驚いたように振り向き、両手でどうにか竈の縁を掴んだがグレーテルの全力の押す力と、父が炎の力のせいで手に汗が滲み、滑っているせいでどんどん中へと入っていく。
ふと、父が振り向き、僕と目があった。
「死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ!」
狂ったように、叫びながら父親を殺そうとしているグレーテルをみて、僕の中で何かが弾けた。
僕は、大きな音を立てて立ち上がり、竈の方に速歩きで歩いていき、グレーテルの襟元をつかんで思いっきり後ろに引いた。グレーテルは叫び声をあげながら、後ろに飛んでいく。
僕は、竈に入りかけている父を引っ張り出して、その辺に座らせて、転がっているグレーテルの方に歩いていって半場無理矢理、立ち上がらせ竈の方に引きずりように連れて行った。
「いや、いやよ! お兄ちゃん!」
「……グレーテル」僕は必死に抵抗するグレーテルの瞳を見つめる。「駄目なんだよ、グレーテル。僕たちは捨てられた時点で死ぬべきだったんだ」
僕は、必死に抵抗するグレーテルの頭と両腕をつかんで、竈の中に押し込める。
「いや、いや! 助けて! 助けて! お兄ちゃん!」
「狂ってしまった。僕もグレーテルも。これが、ヘンゼルとグレーテルの結末さ。一度、人生が狂った人間がろくな暮らしが出来るわけない」
「お兄ちゃん! いやだ! いやよ!」
グレーテルの頭に炎が燃え移った。赤く、赤く、燃えている。
「あの時に、ヘンゼルは鍋の具材になって、グレーテルは焼肉になるべきだったんだ。運命は、未来は、覆すことなんかできりゃしなかったんだよ」
「いやぁああ!」
「僕達にハッピーエンドなんて待っていなかったんだ……!」
僕は、近くにあった、火かき棒をとり、グレーテルの体を竈の中に押し込んだ。グレーテルは必死に火かき棒をつかんで竃から逃げ出そうともがく。僕は、薄い笑みを浮かべながら、力一杯、火かき棒を奥に押し込んだ。
「死んじまえ」
僕は、ゆっくりと竈の重い扉を閉め、掛け金を下ろした。中から、グレーテルの物であろう、劈く悲鳴が轟く。
「僕も、後から追うからね、グレーテル。いつまでも、いつまでも、いつまでもいつまでもいつまでも、一緒に暮らすんだ」
そういって、僕は壊れたようにその場に崩れ落ちた。目尻に涙を浮かべながら、なにも考えることが出来ずに崩れ落ちた。しかし、口元は笑っている。まるで、グレーテルがたまにみせる冷笑のようである。あぁ、こういうことなんだ。僕は、もう、グレーテルと同じなんだ。狂ってる。
不思議と笑いが込み上げてきた。
僕は、狂ったように笑った後にグレーテルが入っている竈をじっと見つめた。もう、炎が燃えている音しか聞こえてこない。グレーテルの声が聞こえてこない。何も聞こえない。何も見えない。何も知らない。何も何も何も何も。
「さよなら、グレーテル――――」