大洋をゆく
人を背負って
大洋をゆく
見えぬ陸地を目指して
ひたすら大洋をゆく
手も足も
満足に使えず
しがみつく重みで
満足に息も出来ず
潮をたらふく飲み
すでに内臓はからからしている
しかし
その荷を捨てる気にも
到底なれず
『一生懸命』
産まれて初めて
『一生懸命』
ひたすら足掻く
生きるために
ひたすら足掻く
ゆけどもゆけども
陸地は見えない
方向を誤ったか?
幾度も不安がよぎった
それでも泳ぎ続けられたのは
同じく陸地を目指す
仲間達がいたからだ
失った仲間達が
いたからだ
誰からともなく
隊列を組み
可能性ある者には手を貸し
残された仲間に
別れを告げた
『ありがとう』『お元気で』『さようなら』
言葉は一切いらなかった
黙って互いに敬礼し
それからは振り返らず
私達は仲間の半分以上を
見殺しにした
いくらか泳いだ時
遠くから懐かしい
故郷の歌が聞こえた
全てを失うものかと
例え一人になろうとも
真実を伝えねばと
一人 また一人と欠けゆく仲間にかわり
生きる者は進み続ける
再び故郷の地を踏むために
進み続ける
黄昏に
飲みこまれる前に
彼岸に
魅入られぬように
この背の荷を
捨てられたなら
仲間が見捨ててくれたなら
全てを諦められたなら
弱い心が挫けそうになる度
背に重く伝わる
僅かな温かさが力になった
勇気になった
この日の葛藤は
忘れないだろう
生きて帰れたならば
決して忘れないだろう
負ぶさる体をしっかりと引き寄せ
『一生懸命』大洋をゆく