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糖分注意!

作者: 平野とまる

 私には幼馴染兼彼氏がいる。

 彼は身長こそ平均くらいなものの顔はとても整っているし、体も十分鍛えてある。頭だって良いし思いやりのある素敵な男性だ。

 幼馴染でなければ私など絶対相手にされなかっただろう。そう断言出来る。

 ただ、幸運な事に彼は私の幼馴染だったし、何を間違ったのか不安を抱く必要のない程私を大切にしてくれているのだ。

 ああ、もし彼と別れたら絶対他の男の人と付き合えないと思う。


「私しゃぁあんたの自慢を聞かされる為に呼ばれたのかい?」


 つらつらと思っている事を言ってしまった所為か、親友のアニーに半目で突っ込まれる。


「ご、ごめんなさい。その、相談に乗って欲しくて」


 慌てて言う私に、はいはいと既に心当たりがあるのかアニーはどこか投げやりに返してくる。

 何よー、悪かったとは思うけど真剣なのに。


「で、どうせ豊穣の祭りで何をプレゼントするかって話でしょ? あんたをプレゼントすれば良いじゃない。リボンでくるんでさ。多分1番喜ぶと思うよ」


 とんでもない事セリフに思わず顔が赤くなる。


「ちょっと! こっちは真剣なのに!」


「あははは、ごめんなさい。

 でも、実際貴方から何をプレセントされようと喜ぶ事は目に見えているじゃない。

 逆に何を悩んでいるのよ?」


 ペロッと舌を出すアニーに思わず頬を膨らましてしまうものの、聞かれるとモゴモゴと口ごもってしまう。


「えっとね……ハンカチ上げようかと思うのだけど……」


「ああ、良いんじゃない?」


 わぁ、物凄い勇気を出して言ったのに物凄く軽く返された!

 思わず怒ろうかと思ったのだけど、それより早く不思議そうなアニーの言葉は続く。


「と言うか、まだ上げてなかったんだ。てっきり渡してると思ってたよ」


「えっ。もしかして皆そう思ってるとか?」


「ああ、間違いなく思ってるでしょうね。だってあんだけ仲が良ければねぇ」


 どこか呆れたように失笑しながら告げてくるアニーに、再び恥ずかしさが込み上げてくる。

 何も言えないでいる私にアニーは尚も言葉を重ねてくる。


「フィンはあんたがいても滅茶苦茶モテるって言うのに、今や街中があんた達カップルを認知して祝福している有様だもんね。

 いやぁ、あの男八方美人かと思ってた時期もあるけど、とんだ間違いだったしね。絶対敵に回したくないわ」


 ブルっと体を震わせながら言ったアニー。

 うん、誰にでも優しい彼が私に嫌がらせなんかしてきた人に物凄い容赦なかったもんね。

 後で聞いたら、僕がこの世で何よりも大切にしている人を傷つけたって事は敵だし、敵には情けなんてかけないよって無邪気に微笑みながら言ってきたもんね。

 うん、大好きでも正直少し引きました。ただ、直後に絶対僕が守るからって抱きしめられてキュンキュンしちゃっけど。

 ……、それは私が単純すぎるのかなぁ?


「その分懐に入れた存在にはとことん優しいけど。あ、一番奥は激甘だったねご馳走様」


「もー。楽しんでるでしょ」


 私が言うとケラケラと笑うアニー。


 結局その後雑談しちゃって肝心の相談をし損ねてしまう。

 うう、ハンカチ渡すのって女性からの愛の誓いなんだけど、意識しすぎちゃってほんと恥ずかしい。

 でも、色々プレゼントしてくれたりサプライズしてくれたりして貰っているのに、私だけ何にもないのは嫌だし。でもでも、フィンは来月だけど私は先週15になってもう成人したんだし、いつものようなプレゼントじゃない物をあげたいとも思う。


 ほんとどうしようー!



 祭りの当日、結局白いハンカチを準備した私。

 あうぅ、どのタイミングで渡そう。

 そう思いながら早めに家を出たのに、既に先に待ち合わせ場所にいるフィン。

 殆どの場合がそうなのだけど、それでも待たせたい訳じゃないから慌てて彼の元に向かう。

 するとフィンも私にすぐ気付いてこちらに駆けてくる。


「ミュー。会いたかった。いつも綺麗だけど今日はまたおめかしして一段と綺麗だね」


「ありがとう、フィンも似合ってるよ」


 あっと言う間に縮まった距離。お互いにそう言葉を交わしつつ自然と手を握ってくれる。

 いつだってこの手を離さないでいてくれる彼。周りに馬鹿にされようと、堂々とミューが大好きだから繋いでるんだって言ってくれたのだっけ。


「その髪飾り付けてくれたんだ。気に入ってくれたみたいで良かった」


「うん、フィンも腕輪付けて来てくれてありがとう」


 そう言えば、フィンの家に遊びに行く事があるのだけど、私が贈った物は全て大切にとってあったし、物凄い嬉しかった事を思い出す。


「あっ、その手提げカバン新しいのだね。うん、可愛らしい感じだね。

 髪も結い上げるの大変だったでしょ? とっても綺麗だよ」


 カバンも実際可愛いなと思って買った物だし、髪も納得がいくまで頑張って結い上げたから、ちゃんと見ていてくれるとすぐに舞い上がってしまう。

 きっと、気づいて欲しいってところにこそよく気が付くフィンは、それで更に人気も高くなっているのだと思う。


 早速幸せな気分で歩き出すと、いつものように私に歩調を自然に合わせてくれる。

 聞いた話だけど、どうやらこうやって女性に歩調を合わせるのは男らしくないと男性の間では言われてしまうらしいのだけど、女性に優しく出来ない方が僕は男らしくないと思うし、それが好きな女の子なら尚更だよねってカラッと笑って何でもない事のようにいつも反論しているみたい。

 とうとうフィンと特に仲の良い男の子は真似までし始めたんだって。

 勿論相手の女の子の反応が良くて感謝されたって言ってたけど、それまでこれが普通と思ってた私は物凄く反省したのだっけ。


 色々ととめどなく話していたのだけど、いい匂いが漂っていてそちらに視線を向ければ串焼きの屋台があった。

 

「アニー、あれ好きだったよね。一緒に食べよう」


「うん」


 流石お祭りで人が沢山いるのだけど、前にかばうようにエスコートしてくれているから、そこまで苦しくない。


「おう、フィルニアンじゃねーか。相変わらずミュリュシュアと仲が良いな」


「勿論だよおじさん。結婚式には是非参加してね」


「がははは、ほんと昔から返しは変わんねーなぁ。もう成人だし本当に結婚しそうだな。

 じゃぁ早めのご祝儀だ。1本ずつ奢ってやろう」


「流石おじさんありがとう!」


 堂々と返すフィンに嬉しく思うものの、恥ずかしい思いもあるので後ろに隠れてしまう。

 それでも変に構ってくれないのは本当にありがたい。

 いや。顔見知りのおじさんだったし普段なら話せない事もないのだけど、だからこそこう言うやりとりの中で話に混ざるのは無理だ。

 でも、流石に奢って貰ってお礼を言わないのもダメなので、さり際にお礼の言葉だけ言っておく。

 何故か頑張れよ! って返されたけど。あれ? もしかしてハンカチ渡すのバレてる? は、恥ずかしい。


 恥ずかしくって、しばらく無言で歩いていたのだけど。……私の状況を察知してくれているのかフィンも無理に話し掛けて来たりしない。

 ああ。なんだろう。こうやって無言でいるのも別に息苦しくないし。寧ろとっても穏やかで安心できる。

 人ごみが多いけど、だからこそ痛くない程度に力強く握ってくれる手が頼もしい。

 本当に私ってフィンにやられちゃってるなぁ。




 何にでも終わりはやってくるもので、祭りも人が少なくなってきた辺りでフィンからの申し出で帰路に付く。

 ああ、また明日が来るまで離れ離れになっちゃうのか。

 感傷的になりすぎてるのか、別に明日が来ればすぐ会えると言うのに、思わず寂しくなってしまう。


 と、気付けば道をフィンと2人で歩いている事に気が付く。

 あ、このタイミングしかない。

 そう思って立ち止まった私に合わせるようにフィンも立ち止まった。


 無言で見つめ合う私とフィン。

 先にそれを壊したのは私だった。


「ねぇ、その、フィンに渡したいものがあるのだけど……」


 どうしても恥ずかしくて最後に口ごもってしまう。


「うん、僕もミューに渡したい物があるんだ」


 やっぱりフィンもプレゼントを準備してくれていたようだ。

 いや、またいつものように気を遣われて先に出されちゃう。それじゃぁダメだ、女は度胸よ。

 いけ、私。


「う、受け取って下さい」


 頭を下げてハンカチを胸に押し付ける。

 うわぁぁぁあああん、恥ずかしいよ。


「……あ、ありがとう。やべぇ、嬉しすぎる」


 無事受け取ってくれてホッと胸を撫で下ろしつつ顔を上げると、顔を真っ赤にして口元を手で抑えていフィンの姿が飛び込む。


「待って。今僕絶対ニヤけて変な顔してるから」


「大丈夫、フィンはどんな顔でも恰好いいよ」


 フィンの事が嬉しくて思わず素直にそう言ってしまう。

 あ、これってとっても恥ずかしい事言ったよね?

 そう思って逃げ出したくなってしまったのだけど、それより先に左腕をフィンに掴まれる。


「……ふぅ、これは真剣な顔で言いたいからな」


「え?」


 呟きに声が溢れる。

 途端に呟き通り真剣な眼差しを向けてくるフィン。反応するように心臓が――否、全身がドクドクと音を立てて脈を打ってくる。

 体全身も熱くなり、どこか現実味が無くなっていく中掴んだ腕を持ち上げられ、左手の薬指に光る何かをはめてくれる。


「指輪?」


 思わず声に出てしまった。

 その問いかけには返事をせず、まっすぐ私を見つめたままフィンは口を開く。


「僕と結婚して下さい」


 シンプルなプロポーズの言葉。

 途端に歪む景色。

 ああ、幸せや喜びも行き過ぎると涙になっちゃうんだ。

 どこか遠いところでそう考えながらも、そのままフィンの胸に飛び込む。


「嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい」


 壊れたかのように繰り返してしまう私。

 ちゃんと返事も出来てないのに、早く返事しなきゃ。

 そう思ったのだけど、顔を上げる前に優しく抱きしめられた。


「うん、絶対一緒に幸せになろうね」

 ご閲覧頂き誠にありがとうございました。

 男女どちらの視点で書くか悩みましたが、今回は女性視点で書いてみました。

 少しでも楽しんで頂けたのでしたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏(ヤンデレとか)のない甘さが久々に感じれました。胃もたれしそうだけど良かった
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