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 閑話 その2 イトコの絆

 身内その1 孫娘(予定)

「久しぶりです」

「ああ」

 本当に久しぶりに会ったイトコは様子が何だか変わっていた。

 ……と、双方が感じていた。

「どうなさったんです、一体」

 言いつのる孫娘(予定)の語感は強い。

 人付き合いとは何だ? そんなものは単なる弱者の馴れ合いにすぎないだろう、と鼻でせせら笑っていそうな傲慢な従兄弟が疎遠だった自分に朝方突然電話を掛けてくるなり今から家を訪ねるから時間を作れと要求してくるのだから当然の反応といえよう。世間的には。

 ただ最も自分が外れているくせに他人には常識の範囲内での言動を求めてくる男には全く通じていなかったため、

「変わったな」

以前はもっと臆病だったのに、という明らかに胸の内に秘め、なおかつ放っておいて欲しい感想を率直に述べられてしまった孫娘(予定)はひきつる頬を元へ戻すべく最大限努力しながら、

「今だけですから」

それもあなただけ、という毒を吐き、ちょっぴり溜飲を下げたりもしながら会話を続けるべく我慢をし続けていた。

「言うようになったな」

「お祖母さまに関わることですから」

 きっぱりと言い切ると孫娘(予定)は孫息子(予定)の目を見据え、舌鋒鋭く口火を切った。

「それで、今まであれだけお祖父さま贔屓でいらしてお祖母さまとは全く疎遠であったあなたが何の御用があるというのです」

 今更だということはわかりきっているのでしょう? と孫娘(予定)はたたみかけ、

「なのにこうして私を呼び出してお祖母さまの話をなさろうとするわけですから、さぞ大事な用件なのでしょう。もったいぶってないで早く話してください」

一気に言い切るとテーブルの端へ寄せたグラスを掴み取り中身を一気に飲み干した。

「じゃあ聞くが、   」

「何でしょう」

「お前、オレの名前がわかるか?」

「はい!?」

 孫娘(予定)は思わず孫息子(予定)の顔を凝視してしまった。

 本当に、何を言い出すのだこの男は。

「いいから言ってみろよ。オレが誰か」

「そんなのっ」

 頭に来た孫娘(予定)が孫息子(予定)の名前を呼びつけた瞬間、

「  でしょうっ、…………え?」

孫息子(予定)の名前が出てこないことに孫娘(予定)はおののいた。

「そんな…………  ……っ、    っっ」

 頭の中には確かに浮かび、声にも出しているはずなのにどうしても孫息子(予定)の名前が音にならなかった。

 しかし孫息子(予定)と同じく一族の霊力を受け継ぎ、なおかつ今では当主である祖母の近くへ置かれてもいた彼女には慣れた事態であったため、

「あなたね」

と即座に原因を見破った。

「何をしたのです、いいえ、何をするつもりなのです」

 名前が機能しなくなるということは当人の消滅を意味する。

 男が時間に……というか過去に手を出したことを悟った女は従兄弟に考え直させるべく、まずその真意を探り始めた。

「過去に干渉するなど、お祖母さまでさえ滅多にされないことなのですよ。あなたもいくばくかの霊力をお持ちとはいえ、こうして存在そのものが揺らいでいるじゃありませんか」

 この上何をするおつもりなのです。事と次第によってはまず私がお相手いたしますよ、と霊力の高さなら従兄弟を上回る彼女は迷うことなく上着の隠しポケットに手を入れ、自身の護身用として身につけているお札を取り出し掲げて見せた。

 すると黙っていた男が口を開き……。

「なあ、お前自分が生まれてこなきゃって考えたことあるか」

 瞬間、室内に閃光が満ちた。

 雷を封じ込めたお札を発動させてしまった孫娘(予定)が動かしたものの孫息子(予定)へ当てるわけにもいかず、威力を落とした結果光だけが残り、部屋を満たしたのだ。

「あな……あなた、いきなり何を……」

 しかし丸腰の相手へ攻撃してしまった孫娘(予定)にも言い分はあった。

 高かれ低かれ霊力というものを持った人間が考えないことのない問題だからだ。--自分も含めて。

 霊力がなければ、普通の子供に生まれれば、自分さえ生まれなければ--と。

 だからこそ祖母を頼って彼女の元へ来た、孫娘として大事に扱われ、当主である祖母の側近くへ置いてもらえてどんなに……だろう?

 男はそうつぶやくと窓の外へ視線を移した。

「オレもだ。お前たちにどう見えていようが、オレだって……」

 それなりに、とささやく姿は本当に消えてしまいそうで、

「……だからですか?」

と冷静さを取り戻した孫娘(予定)は二枚目のお札を取り出し再び構えた。

「だから自分の存在を消そうとしているのですか? 自分が生まれてこない方がいい、自分さえ生まれなければ、と」

 孫娘(予定)はすう、と息を吸うと思い切り吐き出してから

「馬鹿ですか」

と吐き捨てた。

「あなたにとってはそう思うのかもしれませんが、お祖母さまにとってのあなたは大事な孫息子なのです。消滅などさせるわけにはいきません。そのような気など二度と起こさないようにしてさしあげますから覚悟を決めてください」

 言うが早いかお札を動かし、巻き起こされた突風で孫息子(予定)は壁に叩きつけられた……かに見えたが、風は逸れ、悠々と孫息子(予定)は窓に近寄り、

「お前が成長していて良かったよ。悪いがオレはオレの道を行く。邪魔が出来るものならやってみろ」

じゃあな、という捨てぜりふを残して窓から外へ去って行った。

「……何がじゃあな、よ」

 残った孫娘(予定)は自分の作った突風で壁紙は剥がれ内壁も崩れ姿を現した断熱材……にもたれかかる積み上げてしまった家具の山といっためちゃくちゃになった室内の惨状に頭を痛めると共に、祖母へどう報告するかという難題に加え、おそらく自分がこの件の担当にさせられるんだろうなあ、という予感に頭を痛めながら、

「  ……変わるんじゃないわよ、馬鹿」

という悪態をいっそあのまま傲慢でいて欲しかった従兄弟へささやかに吐いた。

  (文字数の都合により作者の携帯端末では編集ができなくなるため、前後にわけさせていただいたのを元へ戻させていただきました。申し訳ありません)

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