閑話 その1 「忘れないで」
友達その3 彼女
そこにいると思っていたのに、気が付いた時にはいなくなっていそうな人。
自分という人間をどう思う?
真砂から突然問いかけられた彼女が考え、困惑の中答えられるまでじっと見続けられるというプレッシャーにさらされながら捻り出した答えがこれだった。
「いなくなっておるか?」
心当たりのない返答に真砂が思わず聞き返すと、そんなことはないけれど、と頭を振ってから
「イメージってことでしょう?」
彼女は律儀に会話を続けた。
「花吹雪っていうか、雪解けっていうか」
その時は確かにその場にあって、また見られると思って通りすぎると次に来た時には跡形もない。
「……みたいな」
ごめんね、あまりうまく言えない。
困惑の中落ち込む彼女へ真砂はそっと手を伸ばした。
「ありがとう」
そうほんわりと微笑む彼女に真砂の頬もほんのり緩んだ。
「ときこさんとしづかちゃんは何て言ったの」
もう聞いたんでしょう? 良かったら私にも教えて、そう聞く彼女へ二人の答えを返すと、
「桃源郷に湧き水かあ」
「どう思う?」
彼女は笑い、当たってるんじゃないかな、と控えめに同意した。
「真砂ちゃんはどこか綺麗っていうか、世間とは遠いところに居るっていうか。何かが違うんだよね」
だから惹かれる人もいるけれど、反発をする人もいる。
人間って、そんなに綺麗なままでいられないし。
苦いものを含ませて笑う彼女に真砂はそっと目を伏せた。--見ていられなかった。
そんな真砂をじっと見つめて笑みを消した彼女は口を開いた。
「真砂ちゃん」
「うん?」
「……忘れないで」
いつか話した時のように、真砂ちゃんの持つ力はもしかしたら真砂ちゃんには重すぎるもので、苦しんだこともこれから苦しむこともたくさんあるのかもしれないけれど。
「ときこさんも、しづかちゃんも、もちろん私も。ずっと、ずっと真砂ちゃんのこと、大事に思っているからね」
だから忘れないで?
そう言い残すとこれが限界だったのか、先のしづかやときこと同じく、彼女の夢も砂のように真砂の手をすり抜け、彼女の元へと還っていった。
「……ありがとう」
ほんに、礼を申す。
そう言って三人の夢の残像へ頭を下げた真砂と、
「--あのヒト、こーゆーヒトだったんだ」
今はまだ遠い未来での予定とはいえ、孫息子という血の絆と真砂自身が心を許していることから自身の霊力で覗き見ていた誰かを残して。
その後、目を覚ました誰かは電話をかけると身支度を整え出かけて行った。
「…………何があったの?」
と困惑する相手の元へ。