閑話 その1 「どこのどなたか存じませんが、考えさせていただきます」
友達その1 ときこ
山登りの途中で見つけた湧き水。
自分という人間をどう思う?
真砂から突然問いかけられたときこが一瞬考え、出した答えがこれだった。
「ほう。湧き水か」
「だってあなたときたらいきなり尋ねてくるのですもの」
しようのない方、と困惑しながらも真砂の唐突さに慣れたときこはそのまま言葉を続けた。
「でも結構いい線を突けたと思いませんこと」
湧き水の温度は山道を登り火照った体をほどよく冷まし、透明な色は目を癒やし、喉を通る水は乾きを潤す。
「ね?」
くすくすと笑うときこは自分の答えに満足していた。
「そのようなあなたの表情まで拝見できましたもの」
どこのどなたか存じませんが、妙なことを吹き込まれた方に感謝いたしますわ。
「--今回は、ね」
そう言い残すと、ときこはこれまた珍しく眉をしかめて考えだした真砂を残して去って行った。
「本当に……どこのどなたか存じませんが、これ以上真砂さんに妙なことを吹き込もうものなら、いくつか考えさせていただきますわ」
底光りする視線ときりっと結んだ決意を残して。
「一一ウソだろ?」
その後、蒼白になった誰かのつぶやきなど誰も知らないまま日にちが流れ月が変わり、
「湧き水か……」
「考えって一体……」
などと口に出す言葉は違えど互いに知らない内に同じ人物の発言に悩む祖母孫(予定)コンビがあったのだった。