閑話 その1 「孫息子、ねえ……」
友達その2 しづか
上質の鈴の音を聞いている気分になる。
自分という人間をどう思う?
唐突に問いかけられたしづかがゆっくりとまばたきを一つ置き、出した答えがこれだった。
真砂という存在を語る時は常に舞い落ちる花びらと鈴の音がセットになって脳裏へ浮かぶ。
実際には一度としてそんな姿を見たことなどないが、それでも腰を過ぎるほどに伸ばした長い髪、大きな祭などで着用するような格の高い巫女の衣装、馥郁としたお神酒の香り、一面に舞う花びら、鳴り響く鈴の音--。
「この国の文人墨客が想像したであろう桃源郷とはこういうところか。そんなことを連想させる存在。それが私にとっての真砂だよ」
そう言ってしづかはさらりと微笑んだ。
「いやに持ち上げるのう」
「そりゃあ? 珍しくアンタの機嫌のいい顔が見られたからね」
わざわざ悪くするこたないだろ? などと憎まれ口を叩きつつもしづかは優しく真砂を見守っていた。
「何と。それほどまでに普段は機嫌が悪いかえ」
「悪かぁないけど、だからっていい顔をあからさまに見せることもあんまりないからねえ」
よっぽど嬉しいことがあったんだろ? 良かったじゃないか。
しづかはそう言いながら腰を上げると片手を上げ、そのまま去って行った。
「孫息子、ねえ……」
一瞬、何もない天井をちらりとにらみ、
「--やっべ」
という聞こえない声を聞いたかのようにニヤリと微笑んでから。
実際、「お客さん」として次の月に訪れた孫(予定)は何故か無茶をしたらしく、
「どうしたのじゃ」
「放っといてくれ……」
彼の体はいつになく淡く透きとおっていた。