姉と弟
真砂が瞳子へ向けるものと、義之に対する態度とでは明らかに違いすぎていた。
むしろ事情を知らない人間には、部下である瞳子の方が、血縁と見られるかもしれない。
それほど真砂が義之に向ける視線は厳しかった。まるで他人へ対するように。
「何が姉上じゃ。茶番ならよそで演じよ」
たわけが。
そう吐き捨てると、真砂の言葉は険しさを増した。
「そも今日そなたに割く時間はないと、言うておいたであろう。それをのうのうと現れた挙げ句、盗み聞きまでしおって」
苦々しく見据えた姉は、弟だからこそ容赦しなかった。
「たった一人の身内じゃと? 身内であるから申しておろう。今やそなたに口を挟める者など、そうはおらぬというに……」
するとしばらく沈黙を保った義之は、
「……そうですね。確かに」
と認めるやいなや、姿勢を正して態度を改めた。
「姉上。あなたにも私にも、口を出せる者など無きに等しい」
あなたには私だけ。私にもあなただけ。
歌うような口調で語りかけると、義之も真砂をにらみ返した。
「だから申しているのではないですか。姉上。私がつまらぬ嫉妬に駆られ、わざわざ来たとお思いか?」
そう呼びかけると、義之もまた、真砂へ対して吐き捨てた。
「姉上。茶番を演じるのもたわけているのも私ではない。あなただ。幕を引かれる気がないのなら、退場いただく他にない」
義之の傲然たる態度は--いや、その姿こそ、真砂との血の繋がりをあらわしていた。
鏡のように酷似していることを知ってか知らずか、二人はじっと睨みあい、じっと対峙し続けていた。