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おまけ
いつの頃からか、オレには焼き付いて離れない、忘れられない記憶があった。
舞い散る桜吹雪、蝉の大音声、燃え上がる紅葉、静寂の雪景色。
父親の肩に乗せられた時もあれば、母親に手を繋がれていた時もあった。
母方の祖父母に連れられた時もあれば、瞳子さんが連れ出してくれた時も----その様子を、父方の祖母が影から見ていたこともあった。
あたたかく、懐かしい記憶は、褪せることなく思い出として残り続ける。
けれどそんな時こそ胸が騒いで、どうにもならない気分になった。
オレは何かとても大切なことを忘れていて、時間を浪費しているのではないか。
目の前の平穏を選ぶことは、かけがえのない何かを失うことに繋がってしまうのではないか。
そんな疑いが、時にじわりと膿みだして、オレの中を乱していく。
オレは何を忘れているのか。
オレは何を思い出さなくてはならないのか。
得体の知れない焦燥だけを、胸の内で育てながら、当時のオレは月日を重ねていた。