ゆえなきに雨は涙す
旧題:消えも入りなん心の奥に・二
まずは相手を見定めてからだ。
オレはじっと祖母を見つめ、しばらくしてから口を開いた。
「……お祖母さまとお呼びしても?」
「構わぬ」
こともなげに祖母が許可する。
僕はその言葉通り、当主に対するものではなく、血が繋がる者として言葉を続けることにした。
「では、お祖母さま。この度、母方の実家より移していただきましたこと、今日までお世話いただきましたこと、厚く御礼申し上げます」
そう手をついて謝辞を述べると、祖母は特にうなずくこともなく、オレを見ていた。
オレの真意を確かめるように。
だからオレは腹を決め、直接ぶつかることにした。
「しかし、失礼ながらお祖母さまは、お祖父さまが亡くなられて以降、ずっと喪に服され、表に出ることがなかったと聞いております。父の没後も変わることなく、わたしのことも母に任せ、動かれることはなかったとか」
礼を失うことはなく。けれど一歩も引かないままで。
けれどそう心がけるほど、体は正直に示していた。
鼓動が早まる。唾液が溜まる。
ずっと絡め手から攻めてきたオレは、こういう勝負に慣れていない。
落ち着け、落ち着くんだ。
頭の中でそう自分に言い聞かせても、どんどん熱が上がっていった。
「ではお祖母さま、なぜ、今、動かれたのでしょうか」
今を逃したら、もう二度と聞く機会を与えられない。
オレの直感はそう確信していた。
だからこそ失敗などできず、同時に緊張がいや増していったのだが……ここでオレの理性は振り切れた。
冷めていた祖母のまなざしに光が宿ったのだ。
「わからぬか」
発せられたその言葉に、背後の使用人も息を飲む。
さらに空気が張り詰める中、オレは自分の勘の正しさを知り、吹っ飛んだ頭の思うまま、祖母に心情を訴えた。
「わかりません。なぜです。なぜ、今、動かれたのですか。もっと早く動くことだって、あなたならいくらでもできたはずだ。母が死ぬ前でも、父が、父が……」
死ぬ前でも。
そう続けようとして、オレは視線を自分の膝に移した。
蒼白になるまで握った拳が、間断なく震えている。
それが自分のための怒りなのか、遺族としての憤りなのか、もう自分でもわからない。
ただ一つ言えるのは、父親が祖母の実家に、あるいは祖母に殺されたという噂を、オレは祖母自身から否定して欲しかった。