息を吸う度に侮蔑の視線が、足を出す度に嘲笑をされる
母方の祖父母の家は、冷たい場所に変わっていた。
甘かった祖父母は徹底的に無関心を貫き、存在しないものと扱われた。
まとわりつかれた親戚連中からは手のひらを返し蔑まれ、息を吸う度に侮蔑の視線が飛び、足を踏み出す度に嘲笑されるとさえ思うようになった。
母親とオレが身を寄せた祖父母の家とは、そういうものに変貌……いや、父親の権力を前に隠していた正体を現したのだ。
オレの父親と母親の結婚は、互いの家による政略結婚だったという。
父親の側は若かった父親の足元を固めるため、母親の側は上昇していく父親の家とより深く繋がるため、それぞれの子供を差し出したのだ。
よっていかに夫婦仲が円満であろうと、父親の失脚と共に両家の婚姻を続ける意味がなくなり、互いに父親の死亡という最良の形で婚姻関係を解消させた。
そしてオレたちは家に繁栄をもたらす存在から一変、厄介者へとなりさがった。
これからまた再婚させなければならない母親と、失脚した人間が残していった幼いオレ。
だからこそ、母方の実家にはオレたちに立場をわきまえさせる必要があったのだろう。
屋敷の隅の狭い部屋を与えられ、オレと母親は文字通り身を寄せ合うように過ごしていた。
……力が欲しかった。
何者にも屈することのない、絶大な力が。
日に日に生気を失い、痩せ細っていく母親を支えるだけの力をオレは欲していたのだが……。
母親の救いは別のところにあったようだ。
ある朝目覚めると、母親の姿がどこにもなかった。
愛用していたカーディガンも、写真立てに入れていた父親の遺影も。
そこから導き出される答えにオレは身を丸め、じっと母親の訃報が届くのを待ち続け……屋敷中に響いた女中の悲鳴に、それを悟ったのだった。