父親との思い出に、ひっそりと暮らすことなど許されない
父親が死んだ後は……周囲の思惑のまま、まるで道端の石のように転がされ続けた。
葬儀が終わって間もなく、母方の実家から迎えが来た。
後から聞いた話では、そもそもオレが住んでいた家は父方の実家が結婚祝いとして建てたもので、名義も会社のものだったという。ならば閑職に追いやられたとはいえ、社員だった父親が亡くなれば退去するのは当然のことだろう。
けれど幼かったオレにとって、家を出ることは自分の状況を知らされる、最初にして最大の衝撃だった。
いかに父親が帰る日がこなかろうと、思い出は隅々に残っている。
その家にもう居られないのだ。
父親との思い出を胸に、母親と二人、ひっそりと暮らすことなど許されない。
オレはそう突きつけられた気がしたし、それは父親の死後、茫然自失状態の母親も同じだったと思う。
これから再会する祖父母は、以前の祖父母と違うのだ。
もう二度と、とろけきった顔を向けられることはないのだろう。
だからこそオレは抜け殻と化していた母親の手を取り、迎えの車に乗った。
差し向けられた人間に言われがまま、遠い母方の実家へ身を寄せたのだ。