「落ち着かんのう……」
授業中、休み時間、ホームルーム。
じわりと滲むように来る気配に引きずられないよう目の前の日常風景に集中しながら、真砂は心の中で呟いた
来たか、と。
昔土曜のことを半ドン、すなわち午前中に学校の授業や仕事が終わり午後が休みになることをさしたように、現在でも土曜の授業は午前中に終わっていた。
となれば勤勉なる帰宅部員である真砂は学校にいる理由がなくなることから、例のごとく裏門に寄せられた一族からの送迎車に乗り、自分の屋敷へと戻った。
特に距離があるわけでも渋滞にはまるわけでもなく、屋敷に着いたのは正午をいくつか過ぎた頃だった。
それから着替えと食事を済ませ、自室へ戻って数十分。
ますます強まる「お客さん」の来る気配の中で、これまた例のごとく平静さを保てば良かったのだが……。
「落ち着かんのう……」
本人の言葉が示す通り、真砂はまったくもって落ち着けなかった。
使用人にはすでに人払いを命じてあるため、気配すら感じない。
完全なる静寂の中で、あとは「お客さん」である孫息子(予定)の訪れを待つべく座って待っていればいい。ただそれだけのはずのことが、今の真砂には難しかった。
瞑想をしようにも糸口すら見つからず、お香を焚いても逆効果。
困り果てた真砂は他人の方法ならばどうかと、以前友人から聞いた方法を試してみたが、どれもまったく効き目がなかった。
「……やはり駄目であったか」
がっくりと肩を落とす真砂の前には投げ出された写経や日舞用の扇、はてはお琴まで出してある。
誰がどの方法を話したのかは後にして、大きくため息を吐くと、真砂は最後の手段を取るべく部屋の中を片付け、服を着替え始めた。