「では聞こう。そなたの答えを」
昔から、梅にちなむ物を側に置くとなぜか落ちついた。
だからだろう、自分の中を奮い立たせたかったり、逆に興奮しすぎて落ち着きたい時などは何かしら梅にちなむ物を側に置いていた。
それは大事な物を入れる蒔絵の手箱だったり、大事な手紙をしたためる時の硯であったり、場合によってさまざまだったが、今日は服の柄に現していた。
襦袢も梅、足袋も梅、半幅襟も梅なら帯も帯留めも梅。
さすがに時期が外れているためお香こそ梅の香りを避けているが、突っ込み属性の友人がここにいたならまぎれもなく
「正月かよ!?」
という突っ込みが裏手と共に炸裂しただろう。
「……ありえそうじゃのう」
頭の中に想像をした真砂は思わずくすりと笑いながら髪を整え、仕上げにかんざしを挿したところで再び声が掛かった。
「--姫様」
「入りや」
入室の許可を出しながら鏡台へ覆いを掛ける。
それはわずかな時間だった。
だが、
「失礼いたします」
とうやうやしく作法通りにお茶を運ぶ男が見たのも、覆いにより閉ざされる鏡台が最後に写していたのも、友人の姿を思い描く少女ではない、一族の次期当主である総領姫の姿だった。
男の淹れたお茶は完璧だった。
これならいつでも役員付きの秘書として採用できるだろう、と平静な表情の裏で真砂は思った。
経歴こそ側近には及ばないが、それはひとえに向こうが華々しく功績を上げるのに対し、正反対なこの男が地味な仕事ばかりこなしているからにすぎない。
まあ側近と同じように活躍するなとこの男には思いも寄らないだろうし、何より側近の方で潰しにかかるだろうが。
とはいえ互いに目障りに思っていることは明白なため、いつかは対峙する日がくるだろう。けれどその時期を早める気のない真砂は思うにとどめ、口では正反対のことを告げた。
「さて。そなたが参ったのは先に出した宿題のことかえ」
案の定、男は是と答えを返し、真砂の目を光らせた。
「さようにございます。--姫様」
「何じゃ」
「この答えが正しければ、私を側に置かれますね」
「--無論じゃ」
不満かえ? と当然のように聞き返す真砂に対し、男の顔にも凄みが混じった。
一族の中で実力はあってもあえて二番手に甘んじてきた男へ本当に二番手となり自分と、ひいては一番手である側近へも従わせる。
真砂が求めた宿題とは男を図るものであり、同時に男が出す答えも当主としての真砂を図るものであったため、当然のことではあったのだが--。
「いえ。一族の当主として立たれる御方ならば、当然のことにございます」
そう平然と言い切り、男は自分の答えを告げ、真砂の目つきをやわらげると同時に、
「馬鹿な奴め」
と苦いため息を吐かせることになった。
こうして後に真砂の右腕と称され、同時に側近中の側近として恐れられた男が真砂の元へ下ったのだが…………それが真砂の言うよう男にとって「馬鹿」なことになるかどうかは、本人以上に真砂へかかっていた。