「そこに座りや」
眼前の祖母は16歳だった。
まだ制服を着て学校へ通う高校生だ。
にもかかわらず高校生の祖母の姿にありし日の厳然としていた祖母の姿が重なって、
「そこに座りや」
という静かながらも怒りに満ちている声に孫息子(予定)はおののいた。
ただ恐ろしくて、恐ろしくて--少年時代のわずかな間といえど祖母の元へ預けられたことから月日が過ち大人になっても--この声は恐ろしかった。
歯を噛み締める音さえはっきり聞こえてしまうような静寂の中、扇を開く音と閉じる音が交差する。
それは一族の当主であることから日頃感情を抑える祖母がそれでも激怒した時に出る癖であったため、頭の中で一度、二度、三度と数えると、続くであろう叱責に孫息子(予定)は身構えた。
一族の巫女は一族を愛する。
それはどれほど崇められたとしても異能者である巫女は一族の他に居場所など無いせいだとされているが、事実は違った。
ただ、愛するのだ。傍から見れば愚かなまでにひたむきに。理屈ではなく。
だから真砂は孫息子(予定)の願いをききいれ--。
「先頃そなたが起こした無茶により一族の者が巻き込まれた」
全てそなたとそなたの無茶をきき入れた自分のせいじゃ。
真砂は怒りに震えながら、自分と孫息子(予定)を断罪した。
孫息子(予定)は真砂から見れば直系に当たる。
かといって一族の次期当主として公平を旨とする真砂が孫息子(予定)を選び傾くことなどありえなかった。
特に、非が孫息子(予定)にある場合は断じて。
それをよく知る孫息子(予定)は頭を下げ続けることで真砂の怒りを受け止めていたが、ふと視界に入った色に頭を上げ、口を開いた。
「--その花」
「うん?」
「……その人が活けたのですね」
孫息子(予定)の指摘に真砂は莞爾と笑った。
真砂の部屋は使用人により常に花が活けられている。
側に付く者こそ実質定められてはいないものの、使用人の中で段を持つ人間の技巧を凝らした作品がかわるがわる部屋を彩っていた。
けれど今孫息子(予定)が指した花は明らかに素人が活けたもので……。
「なるほど。そういうことですか」
自分たちの事情に巻き込んだことの償いとして真砂がその一族の者を自分に付けたことを察した孫息子(予定)は、
「よくわかりました。では、僕に何をせよと?」
と真砂へ問うと、真砂は笑みを浮かべたまま孫息子(予定)の額をさし、続いて自分の腹部もさして見せた。