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「--来やったか」

 火のはぜる音が耳を打つ。いぶかしみながら目をこらし、あたりを見渡してみると、そこは祖母の屋敷の庭だった。

 といっても以前訪れたような祖母の部屋へ通じる奥庭ではなく、敷石しきいしが始まる庭の入り口で、自分の左右を照らすたいまつの炎に嫌な予感を抱きながら、この過去においては自分の昔の記憶も未来にあたることを頼みとして、孫息子(予定)は祖母の部屋へと踏み出した。


 祖母の過去から自分の現在へと還った孫息子(予定)は仰天した。

 よりにもよって還った先に従姉妹である孫娘(予定)がいたからだ。

 思わずうめいてしまいたくなるのを押さえ、余裕のある表情を取り繕いながら孫息子(予定)は考えていた。

 孫息子(予定)が祖母の「お客さん」として祖母の元へ遡る際は行く先が過去であるため、祖母の記憶や一族の記録により当然日時が判明している。そのため一族にはどうやっても察知され、すり抜けることなど到底叶わない。

 だから孫息子(予定)はむしろ堂々とその都度担当者とぶつかっているのだが、祖母の元から還る際は別だった。

 自分の帰りを待つ存在など何もなく、よって多少時間軸がずれたところで、自分以外には誰も困らない。……はずだった。

 なので今のように完全に油断していたのだが、目の前には自分の件を担当し、自分を追っている孫娘(予定)がいて、目を見開いている。

 時間の流れに還ったばかりの自分では、相手にもならない。孫娘(予定)が正気に戻り次第、自分は捕らえられるだろう。

 今、捕まるわけにはいかない。

 とっさに脳裏で明減したその考えに引きずられた孫息子(予定)は、

「またな」

と孫娘(予定)へ告げると再び祖母の元へ遡っていった。


 「お客さん」が巫女の元へ訪れられるのは月に一度だけ。

 その禁忌を犯すからには自分はもちろん、祖母へも何かしらのとがが及ぶことは理解していた。

 よって孫息子(予定)の方でも、遡りついた真砂の元へ、

「……祖母ちゃん?」

といつになく低姿勢……というよりもおそるおそる真砂の部屋へと入って行ったのだが。

「--来やったか」

 見た者全てを凍りつかせる、冷ややかな笑みを浮かべた祖母を前にして、嫌な予感が当たったことを悟った孫息子(予定)は、大人しく頭を下げた。

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