「うん? なぜ皆は教室の隅へ寄っておるのじゃ」
日直の仕事を終えた彼女が教室へ戻って目を見張った理由は友人たちだった。
日本人形のように大人しそうで儚かなげな容貌とは裏腹に実は鉄火肌なしづかは気炎を上げているし、菩薩さまや観音さまのように常にアルカイックスマイルで穏やかに微笑んでいるはずのときこは穏やかさをかなぐり捨てたか今にもひれ伏したくなるような迫力を隠しもしない。
クラスメイトが隅へ離れ遠巻きに怯えているこの状況を本人たちは理解しているのか?
--そう考えた瞬間、彼女は教室から飛び出したくなった。
どう考えてもこの状態を収めるのが自分以外にいないからだ。
現に周囲の人間からあちらへ行くよう押し出されていたらしい学級委員長から何ともいえない視線が自分に寄せられ、隣にいたはずの日直の相方も遠くへ離れて頷いている。
ああ、まったくもう。
自分を諦めさせるために大きな溜め息を吐くと、彼女は眼差しを上げ現場へと向かいだした。
前門のしづかに後門のときこ。
さてどこから話そうかと真砂が答えあぐねている内に真打ちが現れた。
「……まったくもう。三人揃って何してるの」
この中で一番付き合いが短いにも関わらず、実は全員が一番逆らえない友人である彼女だ。
「おお。日直の仕事は終わったのかえ」
「お陰様で。それで、マサちゃんは一体何をしたの?」
その呆れ果てた様子に全員の頭が冷える。周囲をそれぞれ見渡せば、そこには誰一人いなかった。
「うん? なぜ皆は教室の隅へ寄っておるのじゃ」
「……何でだろうねえ」
力なく笑う彼女の様子に何かを察したしづかとときこは勢いを落とし、
「……まあ、昼休みがあるからね」
「ね」
という囁きを残してさらに真砂の首を傾けさせるのだった。