「……それはどこであった?」
祖父の家でのいつも通り、玄米ご飯とお漬け物と味噌汁の食事を済ませた後、同業者からの妨害--平たくいえば一族の次期当主である真砂への襲撃--を防ぐべく、一族から与えられた運転手に送られ、学校の近くの通りで車を下りた瞬間立ちくらみがした、いや--。
世界が揺らいだ。
まるで熟練の手による飴細工のように世界の全てが形を変え、歪み、狂い出し……再構成されていく。
同時に身を襲ってきた激痛に耐えかねた真砂は、うずくまり唇を噛みしめ胸を押さえて耐えていた。
だが、波が引くように体へかかった重圧が去り、視界も元に戻ったため、おそるおそる顔を上げると、真砂のいる場所は祖父の家へ戻っていた。
正確には真砂が食事を採る座敷だ。
現に目の前へ採ったはずの朝食がお膳の上に並んでいる。
ただ玄米だったはずのご飯が白飯に変わっていたため、いぶかしんだ真砂が使用人を呼び聞いてみると、担当の者が運ぶ途中に転んだという。そのため巫女のための玄米ご飯から巫女以外の家人のための白飯へ変えたのだと。
「……それはどこであった?」
思いのほか低い真砂の声に震えながら、使用人は答えた。
「ひ、姫様のお部屋の前でございます」
「そうか」
怯えさせてしまった使用人へ礼を言い、持ち場へ戻らせると、真砂は庭を臨んで大きく息を吐いた。
落ち着いて見てみれば、一度目の朝食の時間よりも遅くなっている。
いつの間にか解けていた制服のリボンを握り、真砂は転んで、いや、転ばせてしまった使用人の名を呼び、詫びを入れた。
自分と孫(予定)の巻き添えをくらわせてしまった使用人の名前を。
真砂が二度目の朝食に箸をつけるには、もう少し時間が必要だった。