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前にもあったな、こんなこと

ほぼ1ヶ月止めてしまった…

夕です。


「目、見られたかもしれない」

そんな最悪な事の後に、ブルータスさんに言われたさらに悪い事を思い出した。

今日はこの村に泊まるのだ。

荷車のところにしゃがみこんで、あーでもないこーでもない言っているところへブルータスさんが帰ってきた。

「なあ、やっぱり今日は帰れないか?」

秋弥がフードを気にしながらブルータスさんを見上げる。

「相手側が強情で商談がまとまらないんだ。ここで妥協すると、うちの儲けがほとんどなくなって、今度の冬が越えられない」

「そう、ですか…」

不安な表情の紅葉が言った。

仕方ないことだ。

まだ春から夏に変わり始めた頃だが、越冬のための食糧は1年をかけて少しずつ貯めていかなければならないという。

王都に行けば、年中食べ物を手に入れられるが、冬の間は物価が上昇し、王都に住む人々より断然裕福とは言えないシューストン村では、なかなか手が出ない。

さらに、雪が積もってしまうと王都への道が通れなくなる。

「どうしたんだ?何かあったか?」

あたし達の間の微妙な空気を感じ取ったらしい。

「さっきこの村のおばあさんに会って、夕花が目を見られたかもしれない」

「目が悪いって言ってたから、確信は持てないけど」

紘斗とヨイチが続けざまに立ち上がって言った。

それを聞いてブルータスさんは眉間に皺を寄せ、顎髭を撫でた。

「参ったな…」

「すみません」

「ああ、ユーカを責めてるんじゃない。君達だけ残していた俺も悪い。ただ…」

ブルータスさんはそう言ってくれているが、なかなかまずい雰囲気だ。

くそ…。

「だだ、何よ」

こういう雰囲気が苦手らしい、シリティアが耐えきれなくなったのか口火を切る。

「……今日、泊まらせてもらう家が村長の家なんだよ、な」

それは別に構わないんじゃないか?

「俺が行ってたのがその村長の家なんだけど。帰り際に入れ違いでおばあさんが来て、村長に何か報告してたんだよなー…」

今思えば、あれ、その事だったのかなー…と頭を掻きながら言う。

それ、間違いないな。

「どうすんのぉ!?」

なぜか紘斗が秋弥の背中を叩きながら叫ぶ。

「いてっ!」

秋弥が半眼で睨むも、慌て始めた面々には相手にしてもらえなかった。

あたしは気づいていたが、あえての放置だ。ああ。

「今から行ったら間違いなく捕まるわよ!夫婦の設定も台無し!」

「大丈夫。シリティアだ・けは、この僕が…」

「……こういう時くらいは大人しくしてね、ヨイチ君」

紅葉だけがまともだ。

ほら、お前ら本当に焦ってるのかとブルータスさんが言いたげだぞ。

「とにかく。村長の家に泊まるのは危険だと思う。今さらだけど、家の中でフード被ってるわけにもいかなかったしな」

「てことは、村長は宿についてノープランであたし達を送り出したんですね…」

それくらい急に決まった計画だったのだ。

「じゃあ、どこで寝るんだよ」

オレンジの髪を弄って、秋弥が尋ねる。

「村長の家以外も危ないだろ?あのばーさん、ぜったいに言いふらしてるぜ」

確かに。

村の広場には人が少ないが、魔族の疑いがある者達が現れたら連絡が回らないはずがない。

それこそ、ここは魔族の住み処のそばの村なのだ。

「村からも離れた方がよくね?」という秋弥の意見に従って、あたし達はその場をはなれることにした。




と言っても、ブルータスさんの商談が終わるまでは帰れない。

離れるのは村の外までだ。

「今日はこのベンタス車の中で寝てもらうことになるけど…それでもいいか?」

「はい、大丈夫です」

聞くと、ブルータスさんは大人の事情で村長の家に泊まるらしい。

この村に到着したのが正午を過ぎて数時間たったころ。

いつもロネリーさんがおやつを出してくれるくらいの時間だった。

今は4時…もうすぐ5時くらいだろうか。

「もし、化け猫が……お前らは大丈夫か。あの火が出る変なの、今日も持ってるんだろ?」

「俺の鞄に入ってる」

紘斗がそばに置いていた鞄に触れる。

村長にもらったやつだ。

「じゃあ、俺は村に帰る。何かあったら、ヨイチかシリティアちゃんが呼びにくるんだぞ。…あと、いい時間になったら晩飯取りに来い」

「わかった」「わかったわ」

ふたりが頷くのを見ると、ブルータスさんは再び村の方へ歩いていった。



そろそろ日がが沈む頃のことだった。

「あ、そう言えば。ねえ、ブルータスさんが言ってたご飯って、そろそろ取りに行ったほうがいいかしら?」

荷車の布をすべて下ろし、小さな灯りをおいた中で、暇を誤魔化すためにひたすらゲーム――むこうで言うトランプのようなものだ――をしていた時、シリティアがハッと顔をあげた。

「確かに」

秋弥がうんうんと頷く。

「取りに行かないとブルータス心配するもんな。それに腹減ったし」

それに答えて紘斗は腹を押さえた。

「シリティアとヨイチ。頼めるか?」

「僕はシリティアの」

「行くわよ。ヨイチ」

頬をつままれて引っ張られて行くのに、なぜか幸せそうなヨイチを見送った。

「もう一回戦して待つか」

紙ではない薄い木の板を混ぜて三人に渡していく。

シリティアの教えてくれたルールは、偶然にもババ抜きと同じで、最後に魔族の絵が残ったら負けというものだった。

「後一枚ずつか?」

「うん」

ここは村から出て少し道をそれたところだった。ブルータスさんが動かしくれたのだ。村からは死角になっていて、それでフードは被っていなかった。

「いいか?…開けるぞ」

「ああ。ふたりは逃げた後だ」

だから、いきなり布が払われて。

「魔族を捕まえろ!」

手に農具やら縄やらを持った。

「うえぇ!?」

「秋弥夕花紅葉!逃げろ!」

村人達が襲ってくるなんて。

「無理だよ!出れない!」

思ってもみなかったあたし達は。

「縄を寄越せ、縛り上げるぞ」

荷車の周りをあっという間に包囲され、抵抗する間もなく、四人ともが捕まってしまったのである。

不覚にもその間約一分ほどだったと思う。



「ここだ!ここに閉じ込めろ!」

つれてこられた先は、あの扉の前だった。

昼間、魔族を閉じ込めているのだと聞かされた場所。

魔族は魔族の棲みかに、か。

「紘斗」

ごつい男に両腕を押さえられている紘斗に小声で話しかける。

紘斗はライターを持ってる。

あの男の手さえ離させることができれば、紘斗のライターで脅せる。縛られていても持ちさえすれば。

その間に逃げればいい。

「………紘斗?」

紘斗は目だけでこちらを見た。

心なしか冷や汗をかいている。

「…………………」

まさか。

ブルータスさんと別れたときの会話を思い起こす。

『――――。あの火が出る変なの、今日も持ってるんだろ?』

『俺の鞄に入ってる』

目の前の扉の鍵が外された。

いきなりの襲撃で、鞄を持つ余裕などなかった。今頃荷車の中にぽつんと置いてあるだろう。

「ひ、開くぞ!押し込んだらすぐ閉めるからな!?」

「おう。おおお、お前もそっちのやつ押さえろよ!」

別に本当に魔族がいるとは思っていないけれど、村人のこの恐れようを見ていると、多少考えが変わりそうにもなる。

「放してください!私達は魔族じゃないです!」

「落ち着け、紅葉。シリティアとヨイチが気づいてブルータスさんに伝え」

「ごちゃごちゃ喋るな!」

背中を突き飛ばされて、土の地面に顔から突っ込んだ。

くそ覚えてろ、手が使えたら殴ってやるところだ。

悲鳴が聞こえて紅葉が隣に倒れてきた。

男ふたりは体当たりや蹴りで抵抗していたが、ジリジリとドアのほうへ追い詰められていく。

先頭の村人がニヤリと笑った。

「よし、閉めろ!」

「ああっ!」

嫌な音を立てて扉が閉まった。

外から鍵をかける音が聞こえた。

15分も経たない間に起こった出来事に、皆、呆然としている。

「…ここ、魔族がいるってところだよね?」

最初に口を開いたのは、意外と落ち着いている紅葉だ。ブルータスさんのもとへ行ったふたりが何とかしてくれると思うことにしたらしい。

「暗い」

秋弥が紘斗にしがみついている。

ドアと土の間から入ってくる光以外は全くの暗闇で、この空間がどれくらいの広さなのかもわからない。

「まあ、動かないに越したことはないな」

まだ夕方だったからよかった。

「う、動いて出られなくなったら最悪だもんな!」

恐怖を振り払うように秋弥は笑顔で言う。

だが、次の瞬間にはその顔のまま固まることになった。

闇の中から土を擦る足音、そして、声が、聞こえたのだ。


「お前達、ここで何をしている」



秋雨さんおねがいします。

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