意外な、その男
間が空いてしまい申し訳ありません。
リレー小説隊の問題児、夕が書かせていただきます。
夕花の人です。
あたし達は突然のことに固まっていた。
宿を教えてくれるという男についてきたら、そいつにいきなり襲われて?紘斗が捕まりかけて?
「…で、いったいあいつは誰だ?」
「し、知らないよ」
紅葉は後から来たほうの男を見て首を振った。
さっきまでの恐怖のせいか、声が震えている。
「……………」
「……………」
「……………」
その場にいる誰もが沈黙していた。
人拐いと判明した男は青い顔をして、割り込んできた男を見る。
「紘斗!紘斗!」
最初に沈黙を破ったのは秋弥で、小声で紘斗を呼んでいる。
それを聞いてあたしと紅葉もハッと気づいた。
振り向いた紘斗に口パクで合図する。
「フード…!」
男の一番近くにいた紘斗はそれで伝わったらしい慌てた様子でフードを深く被った。
目の色を見られてないないといいが…。
「お前…っ、こ、コーガ…!」
人拐いの男がようやく震える声で言った。
「なんでこんなところに…っ」
コーガ…流れ的にあいつの名前か?
ただ目の前の出来事を見守るしかできないあたし達の前で、彼はすっと右手をあげた。
外から数人が入ってきて人拐いの男を捕らえる。皆、鈍く光る鎧兜を着ている。
両手を縛られるその間も男は茫然としたままで抵抗もしなかった。
「たすかった…?」
男が連れていかれたあと、尻餅をついた状態だった紘斗がゆっくり立ち上がった。
民家のなかにはわけがわからない、あたし達だけが残されることになったのだが…。
「今の誰だ!?オレ達ヤバいところだったの!?」
うるさい。
秋弥が紘斗の背中をばしばし叩きながら叫ぶ。
「紘斗、大丈夫?」
紅葉はそこへ心配そうに駆け寄り。
シリティアにいたっては、まだ青ざめた顔をして固まっていた。
「ヨイチ?」
シリティアがこんな時、必ず飛びつくはずのヨイチが眉間にしわを寄せて扉の外を見つめている。
外?ああ、まだ外にいるのか。
「どうした?シリティアが怖がってるぞ」
「なんだって!」
我に返ったヨイチはシリティアに返り討ちにされていた。
「で。どうしたんだ?」
みんな、ぞろぞろとヨイチの周りに集まる。
「あの男…あそこにいる人達は、王城の騎士だと思う」
「「は!?」」
一斉に扉の向こうに見える男達を見た。
確かに、立派な服といい腰の剣といい、見た感じ騎士に見えなくもないが…。
「あのやろー捕まえてくれたやつらは騎士っぽかったけど、最初のやつは普通の格好してたぞ?豪華だったけどさ」
思ったことを全部代わりに秋弥が言ってくれた。
「でも剣の紋章はアルギュロス王国の紋章…」
と、ヨイチはそこで言葉を切った。
その視線を追うと。
「君たち、怪我はないか?」
噂の男にぶつかった。
フードを深くかぶりなおす。
「あいつは仲間が城へ送ったから安心してくれ」
「はあ…」
濃い黄色の髪に青い目、さっきは気づかなかったが、これまた凄い色だ。
「宿に案内すると騙されたらしいな。幸い、この民家が空き家になっているのは本当だから使わせてもらうといい。もう夜も遅い」
そう言って男は背を向けた。
家を出るところで一度振りかえる。
「私の名前はコーガだ。…もう会うことがなければええな」
目を細めてあたし達を順番に見て、そして今度こそ出ていった。
木製の扉が軋みながら閉じる。
「今、なんか……言葉遣い…」
「夕花ー夕花ー!部屋決めようぜー!」
「ああ、そうだな。眠い」
――――――
重い扉を後ろ手に閉める。
「国王様に報告がある。ふたりにさせてくれ」
そう命じると扉の左右に立っていた兵は敬礼して出ていった。
足音が遠ざかるのを聞いて、コーガは長い溜め息をついた。
「遅かったな、コーガ」
「キノちゃーん…俺やっぱこの仕事むいてへんよー」
国王は玉座を立ってコーガに歩み寄る。
「お前以外に誰がやるというのだ。それと言葉遣いをどうにかしろといつも…」
「国民の前ではちゃんとしとるよー」
壁際の椅子にどっかり座りもう一度溜め息をつく。
「前々から追っとった人身売買の首謀者…やっぱり城の騎士団のやつやったわ。今日現行犯で連行しといた」
「そうか…」
「で、もうひとつ報告。その人身売買にやられかけとった子供たちなんやけど…ちょーっと気になることがあってな…………」
お疲れ様でした。
次は秋雨さん。何とかしてください。