万事休す!!
お久しぶりです!緋絽です!
壁に手をつきながら慎重に階段を降りる。
後ろを歩いている秋弥もゆっくり歩いてきた。
今さっきの音、結構でかかったよな、と頭をフル回転させながら考える。
多分まだ、ヨイチは中にいるはずだ。そしてヨイチを連れて行った奴も。
…てことは、聞こえてる可能性があるわけで。その上地響きしたわけで。
言葉少なく進む。
絶対誰か見にくると思うんですけど!!
ヨイチ運べたってことは2人はいるわけだろ。
そいつらの内どっちか、絶対来るだろ!!
その時の対処法とかいろいろ考えながら進んでいると何か音が聞こえた。
ハッとして立ち止まる。
「うわっ、もーなんだよー紘斗ー」
背中にぶつかってきた秋弥が鼻を押さえながら大きな声で文句を言ってきた。
「しーっ!!静かに!!」
口に指を当てて小声で制する。
「なんだよ」
「今、なんか音したろ?」
「えっ、嘘っ」
秋弥が俺の背中にしがみついて前に広がる階段を見た。
「………せ………だせ!!………」
「声聞こえたー!!」
秋弥が聞こえてきた声に後ろで小さく叫ぶ。
俺は階段に積もっている土を松明にぶっかけて火を消した。
火がついてたら見つけてくださいって言ってるようなもんだ。
左右の壁の凹凸に身を隠すように縮みこまる。
でも凹凸が浅い!!こんなんじゃ隠れられないって!!
数人分の足音が近づいてくる。野太い男の怒鳴り声もオマケに付いて来た。
「捜せ!!誰かここに入ってきてるぞ!!」
「見つけしだい捕まえろ!!」
いや、そこは話し合おうぜ!!
「やべー!!」
秋弥が再び小さい声で隣で叫んだ。
秋弥の頭を叩いてから口を塞ぐ。
マジでやべー!!どうする、マジどうする!?
汗が頬を伝った。地下で涼しいのに、汗が滲む。
いや、落ち着け俺。まだなんか手があるはずだ。
この階段を引き返すのは得策じゃない。この先が一番怪しいから、とにかく見ておかないと。
じゃあこのままここにいるのか?
いや待てよ。階段登ったところに隠れるとこなかったっけ。
とにかく行かないことには始まんねぇ!!
「秋弥、引き返せ!!」
「は!?」
「一旦隠れる!!ヨイチ殴って拉致れる奴相手に俺達が応戦できるわけないだろ!!」
「そ、そっか」
秋弥が走って登り出す。
俺も後を追いかけ走った。一段どころか数段飛ばして駆け上る。
でも、俺達元・現代っ子なんだよな。
悲しいかな声は段々近づいてきてる。
しかも俺達足音消しきれずに気づかれたし!!
「秋弥、急げ!!」
「残念なことにこれがオレの全速力!!」
もうなりふり構ってる暇なんかねぇよな、うん、ねぇよなと目で会話する。
仕方ない。
秋弥もそう判断したのか、急に速度を上げた。ただし、足音は大音響で。
俺も大音響で走った。
階段を登りきって────俺達は焦っていた。手で暗い中を手探りで探しているのになかなか隠れられるような凹凸を見つけられない。
嘘だろ!?追いつかれるって!!
「マジか!!」
秋弥が荒い息でそう言った。
背後で階段を登る足音が止む。暗かった足元が僅かに明るくなった。
これ以上逃げるのはもう完璧得策じゃない。
万事休す。
「ゆっくりこっちを向け」
男の声に言われた通り振り返る。
あれ、この声…。
振り向いて俺はあんぐりと口を開けた。
「あーーーっ!!」
秋弥が隣で声を上げた。
「お前、あの時の山賊じゃん!!」
そう、何を隠そう松明を持ってお仲間と俺達を追い詰めていたのは、シリティアのストーカー事件の時の山賊だったのだ。
通りでさっき拾ったピアスに見覚えがあるはずだ。だって、目の前の山賊の耳でもう片方が揺れているのだから。
「お前らはあの時の!!……えーっと!!」
思い出せよ!!確かにあの時ヨイチが強烈だったけどさ!!いたぜ!?俺達!!
「ま、まぁいい。お前ら、そこでじっとしてろよ?動くんじゃねーぞ」
男とその仲間がジリジリと詰め寄ってくる。
クソ、なんか、なんかないか。
焦ってポケットをズボンの上から押さえる。そこで───何か固い物に手が当たった。
これ、は。
ハッと思い付く。
いけるかも!!
「止まれ」
なるべく腹の底に響くような声を心がけながらそう言う。
「あぁ?」
男とその仲間が俺の言葉に怪訝そうな顔で止まった。
隣の秋弥も怪訝そうに俺を見ている。
「なんだ?ビビっちゃったのか!?」
ギャハハハと下品な笑い声が反響する。
しかし俺はここでビビるわけにはいかないのです。
「お前ら、俺達にそんな態度でいいのか?」
「はぁ?いいも悪いもねぇだろ」
「本当に、後悔しないんだな?────この」
一歩、俺から男達に近づいて前髪をかきあげる。
「瞳と髪を持つ者が何者か、知らぬわけではないだろう?」
男達はそこでようやく俺達の髪と目に気付いたようで、小さく悲鳴が上がる。
「魔族だ!!」
「離れろ!!」
目の前の男達と距離が出来た。
わーわーと騒いで逃げようとしているのを見て胸のあたりが重くなる。
う、やっぱちょっとショック。この対処法、俺のメンタル面を抉っていくわ。
シリティアの時の山賊がまだ虚勢を張って若干腰を引きながら手に持った剣を突き出してくる。
「だ、騙されるなお前ら!!ちょっと暗いから、紺の髪が黒に見えるだけ…!!」
「嘘ではない」
言葉を被せ、なるべく淡々と見えるように無表情を作った。
秋弥が隣でガンバ!!と拳を握っているのが見えた。
気楽だな、おい!!
「しょ、証拠はどこにある!!」
待ってました!!とばかりに俺は笑う。
だって本当に待ってたからな。
「いいだろう。見せてやる」
ポケットに手を突っ込んで────俺は、ライターを取り出した。
カチッと火を灯し手を伸ばし男達に近付ける。
「一瞬で火が…」
愕然とした声が届いた。
「これぞ我らが魔族である証拠だ!!これの前ではお前らなど無力に等しい!!そこらの塵らしく、焼ききってくれる!!」
頭上に手を上げてそう言い放つ。
実は0円のライターだから、灯油とか掛けない限りそんなすぐには燃え広がらないんだけどね!!
「本物だ!!」
「魔族だ!!」
「殺されるぞ、逃げろー!!」
口々に叫びながら、しかし男達は動かない。正確には動けない。
だって俺達は階段から洞窟へ続く入り口の方に立っていて、男達は階段の入り口の方に立っているからだ。
階段の方に逃げてもほぼ意味ないですしね!!でも洞窟へ続く入り口の前には俺達がいるし、さて、どうする山賊の皆さん。
俺は寛大な心を持っているような声を出した。
「武器を捨てるなら…」
「どうせ殺されるなら俺は生き残れる方を選ぶ!!」
そう言って男達の中の一人が剣を振りかぶって突進してきた。
なんでそうなんの!!つーか俺の話最後まで聞けよ!!
剣の切っ先はもう俺達に向かって振り下ろされている。
あ、ヤバい。異世界でどうやら俺達の人生は幕を閉じるみたいです。夕花との約束、守れそうにないよ、ごめん、夕花───。
突然目の前の男が横に吹っ飛んだ。当然、剣も一緒に吹っ飛んで、俺達は命拾いをした。
何が、起きて…。
「ヒロト!!シューヤ!!」
この、声、は。
目の前に、捜していた赤の双眸があった。
洞窟に入っていったっきりいなくなっていたヨイチが、俺の前に立っていた。
「ヨイチ!!無事だったのか!!」
秋弥が安堵したように言った。
俺もホッとしてライターをポケットにしまう。
ヨイチを改めてよく見ると、額に打ちつけたような傷ができていた。血が滲んでいる。
もしかして、この血があそこに付いてたのかな。
「あぁ、まぁ一応ね。声でかいから話、聞こえてたけど…」
ヨイチにチラリと見られる。
うん?なんだ?
首を傾げるとなんでもない、と首を横に振った。
「まぁ、話は後だな。とにかく今は」
ヨイチが山賊の方に目をやる。
俺達も竦み上がるぐらい怒りのこもった目に、山賊達が汗をダラダラと流しながら一歩引いた。
「こいつらを殴らなきゃ気がすまない」
その数秒後、洞窟に山賊達の絶叫が響いた。
それからは早かった。
ヨイチにボッコボコにされた山賊達にヨイチを拉致った理由を聞き出し、
「以前の仕返しをしたかったから」
という回答を半ベソをかきながら答えた山賊達は再びヨイチの手によってボッコボコにされ、その後山賊達の絶叫を聞いて中に入ってきたカウジェさんと村の男達が王都の警備隊まで届けていった。
上にいた夕花達と合流すると紅葉とシリティアは「よかったー!!」とちょっと涙目で言った。
「おかえり、3人さん」
夕花がどこか安心したように笑って言った。
「ただいま戻りました!!」
こうして長い夜は終わりを告げた。
────翌日、俺達は例によってシリティアの部屋に集まっていた。
「結局、七不思議はその山賊の歌だったわけだ。あんな風体で、意外な特技だったな」
どうやら洞窟から山賊が出てきた時その姿を見たらしい夕花が、ベッドに座り足を組んで言った。
「いっそのことその特技を生かして楽師とか、歌い手になればよかったのにね」
紅葉がその隣に座って言った。
「ホントだよな。思いつかなかったのかな」
「なんか、ちょいちょい残念な奴らだな」
秋弥が呆れたように言う。
「ていうかヨイチ!!危ないかもしれないから行っちゃダメって言ったのに行っちゃうから!!べっ、別に心配したわけじゃないんだからね!!」
ツンと、シリティアが横を向く。
「ごめん、シリティア!!でも怒った顔も可愛いよ!!」
「ヨイチ!!」
シリティアに睨まれてヨイチはすごすごといつもの雰囲気に持っていくのを止めた。
いい選択だ、ヨイチ。
今の間違ったらシリティアにボッコボコにされてたぞ。
「なんか、本当にすみませんでした!!あと、……シューヤ」
「ん?」
秋弥がヨイチに向かって首を傾げる。かなりの間をとったあとにヨイチが口を開いた。
「…………助かった。ありがとう」
秋弥が目を丸くする。
デレ第2段!!
呆気にとられた俺達の中で真っ先に夕花が立ち直り、咳払いをした。
「ま、まあ何にせよ、無事だったんだからよしとしよう」
それからいつも通り雑談を始めた。
その様子を見ているとヨイチが隣にきた。
「ヨイチ?」
「悪かった」
「え?」
「……あんなこと、言わせて、悪かった」
ヨイチが目を逸らして言った。
あんなことって。あぁ洞窟でのことか、と合点がいく。
俺は思わず、笑う。
「いいって。ヨイチが無事でよかったよ」
まあ何にせよ、最後はめでたしめでたしってことで!!
長くなりました(^_^;)
次回、本編は夕さん!
番外編を書いていこうと思います~ヾ(≧∇≦)