暗闇の中で
回ってきました~!
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────あれから、10分以上経った。未練がましく待っていたから、もしかしたら20分くらい経っているかもしれない。
「…ヨイチ…遅いな…」
洞窟の前にしゃがみこんで溜め息をつく。吐く息が白くなって消えた。
「あいつ、迷ってるんじゃないか?多分そうだって!!だってあいつもこの洞窟に入ったことないんだろ?」
顔をひきつらせ若干涙目になった秋弥が誰に聞くともなく言った。
「あいつが迷うはずがないわ」
シリティアが表情を硬くして、少し怒ったような声で返した。
「私もそう思うよ」
紅葉が頷く。
「なんで?」
秋弥が首を傾げる。
うん、俺もヨイチが迷うはずがないと思う。だって、シリティア大好きなあいつがシリティアを置いて迷ったりするわけない。
……まぁ、ふざけたように思えるかもしれないけど。あいつならそれが成り立つから怖い。
「あたしもそう考えてた。考えてもみろ、あいつはシリティア大好きだが頭は悪くない。分かれ道がきたらどちらに進むか統一するはずだ。行きは分かれ道に当たったら右に進む、って感じでな。それなら帰りは全て左に行けばいい」
夕花が洞窟の入り口にもたれながら闇を睨みつけて言った。
俺はその言葉に頷く。
「何にせよ、ヨイチを迎えにいかないとな」
全員を見渡す。硬い表情のまま全員が頷く。
よし。じゃあ、決行だ。
短くなった松明の火を踏んで消した。
「近くに酒蔵あったよな?」
「え?えぇ」
シリティアが怪訝な顔をする。
「よし、悪いけどシリティア、そこまで案内してもらえる?」
「いいけど…何するの?」
「新しい松明作る」
「紘斗、あたし達は何をすればいい?」
夕花が眼鏡を直しながら聞いてきた。
「夕花と紅葉は2人でカウジェさん呼んできてくれ。その後シリティアと洞窟前で合流」
「わかった」
紅葉が頷いた。
「紘斗、オレは?」
秋弥がビクビクしながら聞いてきた。
「お前は俺と一緒に来るんだよ」
そう言って引きずるように歩き出す。
酒蔵についた俺は一番アルコール度数の強そうな酒をもらって途中で拾った木の枝にぶっかけた。下の方に裂いた布を巻いて持ち手を作る。
酒蔵を出てからライターで火をつけた。
勢いよく燃え出す。
洞窟前まで帰るとすでに夕花達は集まっていた。
カウジェさんの前に立った。
「俺と秋弥で中を見てきます」
「そんなことさせられるわけないだろう」
カウジェさんが顔を歪めて言った。
「子供に行かせるわけにはいかない」
「平気です。何かあるとは限りませんし、俺達はいざとなれば髪色で撃退できますから」
「お前は…そんな風に自分の個性を使うな」
「とにかく行きます。依頼されましたし、心配ですから」
「………どうしても行くのか」
「はい。カウジェさんには、夕花達と一緒に反対側に回っていてほしいんです。もしかしたら抜け穴とかあるかもしれないですから」
カウジェさんはしばらく考え込むとしぶしぶ頷いた。
「紘斗、秋弥」
夕花が俺達を呼ぶ。
振り返るとニッコリ笑われた。
「迷うなよ」
「「……はい」」
なかなかの黒い笑みに思わずガクガクと頷いた。
洞窟の前に立って松明を掲げる。
「よし、行こう」
暗闇に飛び込んだ。
水の跳ねる音が響く。
中を照らすと両側の壁や天井に太い木の棒が入り組んでいた。
棒というより柱だ。
「くーらーいー」
秋弥が俺の後ろでビクビクしながら歩いている。
珍しいな、秋弥がこんなになるなんて。
「秋弥ってそんな怖がりだったっけ?」
「忘れたか!!オレはホラーが大嫌いなんだ!!」
秋弥が噛みつくように返してきた。
「そうだったっけ…」
話しながら歩いていると足が何かを踏んだ。
「え?」
「何!?」
屈んで足元を照らす。
……これ…。
「ヨイチが持っていった松明じゃないか?」
だって持ち手が俺の巻いた布だ。
「……松明を落としたのか…」
でもそれならなんで場所を動いたんだろう。ヨイチなら俺達が中に入ってくることを考えて、そんなに動こうとしないと思うんだよなぁ。
頭を掻いて秋弥を見ると秋弥も神妙な顔をしていた。
周りを見渡すと何かが光った。
屈んでそれを見て───首を傾げた。
「紘斗?どうした?」
「見ろよ、これ」
「あれ、これって…」
「だよな」
「あぁ」
どこかで見たことのあるピアス───。
「どこで見たんだっけ?」
「え~っと…」
ふと記憶からピアスを見た背景が浮かんできた。
燃えるように赤い髪。その傍に寄せられた顔。その耳に下がっているピアス。赤い、夕暮れ。
「あ″ーー!!あとちょっとなのに出てこない!!」
頭をかきむしって目線を下に下げる。
とにかく、動かないと始まらない。
目の前の道を見て悩む。
2本道。
中に入って初めての分かれ道だ。
果たしてヨイチはどっちに行ったんだろう?
「別々に行けばよくね?」
秋弥がノホホンと言った。俺は首を横に振る。
「本で読んだことある。こういう時は別れない方がいいんだってさ」
「ふーん…」
ふと目線をさまよわせた秋弥が固まる。少しだけ血の気が引いたように見える。
「秋弥?」
「ひ、紘斗…これ…」
「なんだよ」
秋弥が指指した方を見て───俺も固まった。
「血が…」
足元に僅かに血がついていた。少し固まりかけている。
どういうことだ?なんで血が?
まだ固まってないってことはこれはついさっきついたってことで…。
ふと、先程自分の考えたことを思い出した。
『ヨイチなら』。
じゃあ、もし、ヨイチが動いたのは自ら望んだものじゃないとしたら?
自主的に『動いた』のではなく、『動かされた』のだとしたら?
息が早くなる。
「ヨイチ…!!」
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