シリティアとヨイチ
遅くなりました。
進学やらなんやらがありまして…
いえ、これは決して言い訳ではありませんよ。
そんなわけで、夕です。
このままここでジメジメしていてもなにも変わらない。
向こうが来ないなら、こっちから行ってやれ。
「シリティア、行くぞ」
「ちょっと…ユーカ…っ」
ため息を連番していたシリティアを立たせる。
赤い髪がふわりと揺れた。
あー…ここにヨイチがいたら、また「綺麗だ!」とか何だとか言い出すだろうに。
「大人数で行ってもなんだし、ここは女子だけでいかない?」
紅葉がシリティアと腕を組みながら言うと、秋弥がガタンと立ち上がった。
「オレも行く!!」
「でも、秋弥はヨイチとケンカになるでしょ?」
「オレ、ケンカしねーし!!」
こら、ヒートアップするな。紅茶に波がたってる。
「オレがいつヨイチとケン「じゃあ、行ってくる。紘斗、留守番と秋弥を任せた」
むくれるシリティアを促して三人で玄関を出る。
後ろで「オレもーーーーっ」とか「落ち着けーーーっ」とか陶器が割れる音が聞こえたのは気にしないでおこう。……村長ごめんなさい。
「シリティア、ヨイチの家まで案内してくれ」
「任せなさい。私は村長の娘、この村のことなら全て把握してるわ」
シューストン村自体はあまり広いとは言えないが、家と家の間に道が複雑に絡み合っている。
たいぶここに慣れたと言っても、まだ不安なところもある。
「こっちだったかしら?」
いきなり細い道に入る。
「そういえばシリティアとヨイチって…あ、そうか初対面だっけ、この前のが」
「ええ、初対面よ。でも、一度もお父さんと訪ね訪ねたことがあるの。ヨイチがいたかは覚えてないけど」
「それじゃ、前に会ったことあるのかもねっ」
細い道を抜けるといつもゼファロス達と遊んでいる広場に出た。
こんなところからも来れたのか。
「今度はこっちだと思うわ。まったく、面倒なところに住んでるわね」
広場に出たと思うと、また細い道に入る。
「で、この道を入って…えっと…」
ぶつぶつ言っているシリティア。
あたしは紅葉と顔を見合わせる。
「あたしは無事にたどり着ける気がしなくなってきたぞ」
「あはは…村長さんに教えてもらえばよかったかな…」
それでも必死に道順を思いだそうとしているシリティアの邪魔をすることは出来なかった。
そして10分後。
「自分の村で迷いますか」
「まあまあ、夕花…怒らないの」
怒りマークを浮かべるあたしを紅葉がなだめることに。
「ほ、本当にこっちであってるんだからっ!!…たぶん」
そんなことを言っても、うろうろその場で回るだけだから説得力がない。
あたしはその場にしゃがみこんでため息をついた。
「シリティア、お前ほんとは方向音痴か?」
「そんなことないわよっ!」
周りをぐるりと見ると、ここは村の中でも端のほうらしい、太い杭が何本も刺してあるのが遠くに見えた。
あたし達が初めてこの村に来たときのような山猫が来るのを防ぐためかもしれない。
こういう見慣れない物を見ると、やはりここが異世界だと言うことを思い知らされる。
「どうする?とりあえず、村長さんのの家まで帰って…」
「大丈夫よっ!」
ほとんど涙目になって言い返すシリティア。
何をそこまでむきになっているのだろう。
「ヨイチの家まで行かないと…」
ヨイチ…?家を出るときまでは嫌がっていたのに。
確かにヨイチの家にたどり着くのが目的だが。
「シリティア…」
「どうした?」
さっきまでうろうろしていたシリティアが、急に立ち止まってうつむいた。
「ヨイチがああなったのは…私のせい、だから。私が、乗れもしないのに、ベンタスに乗りたいとか言ったから…」
そんなシリティアを紅葉が支えて、どう声をかけようかとしている。
あたしもなんと言ったらいいかわからない。
「会って、ちゃんと謝りたい…」
―――と、砂の擦れる音がした。
目をそちらに向けると、一段高くなった畑に見慣れたあの顔が立っていた。
「―――――シリティア…」
シリティアは気付いていない。
あたしと紅葉は気づいた。
そう、そこに立っていたのは、ヨイチだった。
秋雨さん、お待たせしました。