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ベンタス


「───ベンタス小屋の掃除?」

ダイニングで塩漬け(塩に似たもの漬け)した肉を焼いて濃い青のソースをかけたものを頬張っていた俺はカウジェさんの話に顔を上げた。

この食べ物を初めて見た時はソースの色にドン引きしたが、食べてみると意外に甘く、肉とよくあった。何かの木の実の汁にスパイスを混ぜて煮たものらしいが、それにしてもこの色はどうにかならないのだろうか。慣れればなんてことはないが、慣れるまで食欲はおねんねしてしまう。

「そうだ。ベンタスが何か知ってるか?」

「いえ…知らないっす」

秋弥がゴクリと飲み込んでから答える。

「生き物ですか?」

紅葉が首を傾げて訊いた。

「あぁ。田畑を耕す時や、荷物を運ぶ時によく活躍するな」

てことは、牛とか、馬みたいなもんか?

秋弥もそう思ったのか「乗りてぇぇえ!!」と拳を握っている。

「見た目は───って言ってもわからんだろうな、見てみるか?」

「是非」

夕花がグラスに入った水を一口飲んで頷く。

「お父さん、私も行くから」

シリティアがフォークを置いて必死のオーラで言った。

「え?お前あんなに行きたくないって言ってたじゃないか」

「そりゃあ今だって行きたくないわよ!!べっ別に怖いわけじゃないんだからね!!」

怖いんだな。

シリティア以外の4人もそう思ったのか温かく笑っている。

「で、でもっあいつが付きまとってくることに比べたらっベンタスなんて可愛いものだわ!!」

「あいつ?」

カウジェさんが首を傾げる。

もしかして、カウジェさんは知らないのだろうか。

ヒヤリと汗が流れ落ちた。

あいつ、最大の関門の目を欺いて、何度も何度もここに来れてたってことか…?

すげぇな!!

「いいから早く行きましょ!!早くしないとあいつが───」

「シーリーティーアー!!」

ダイニングのドアが勢いよく盛大に音をたてて開いた。

「来ちゃった……」

今の一瞬でゲッソリとシリティアが痩せたように見えたのは気のせいか。

「おはようシリティア!!今日も可愛いなぁ!!素敵だ!!その燃えるような赤い髪が煌めいて見え、ぶっ」

勢いよく開いたドアが跳ね返りヨイチの顔面にヒットした。

「うぅう痛い…くっこのドアめ、僕のシリティアへの愛を邪魔するつもりだな!?ふんっ負けないぞ、愛は勝つんだからな!!愛してるよシリティアー!!あれっなんか星が飛んでる?すごいねシリティア!!君の輝きのせいで星が霞んで見えるよ!!」

「そう、なら家に帰って大人しく寝てたらいいじゃない。そうよ、そうしなさいよ」

そう言いつつシリティアが俺の背に隠れる。

「そういうつれないところも好きだよ!!」

ヨイチの笑顔が輝く。

うわぉシャイニング!!

顔だけ見たら誰にも負けないほどかっこいいのに、残念だ!!

「お前は?」

ハッと我に返って、そういえばカウジェさんがいたことを思い出す。

どうすんのーどうすんのーヨイチー!!

パチクリとヨイチは目を瞬かせ、その次の瞬間───土下座した。

「シリティアを僕にくださいぃぃい!!」

「えーーーーーー!!」

思わず秋弥と声を上げる。

「ダメだ」

「えーーーーーー!!」

そこ冷静に返しますかカウジェさん!!

再び声を上げるとうるさいと夕花に叩かれた。

「夕花、だってさ!!」

「気持ちはわからんでもないが、とにかく落ち着け」

「そ、そうだな」

頷いて落ち着けと呟く。

「なんでですか!!こんなに僕はシリティアを愛してるのに!!」

「そのシリティアが嫌がってるだろう。ダメだ。で、名前は」

「ヨイチです!!」

不服そうに口を尖らせながら、しかし律儀に答えた。

「ヨイチ?もしかして武大会で話題になってた奴か?」

「話題?いえ、知りませんけど、武大会には出ました!!」

絶対その話題になった奴だ。

通りで山賊をあんなに簡単にのしてしまえてたのか。

「まぁいい、とにかく許さん。出てけ」

シッシッと手を振る。

「すいません、彼もベンタス小屋のところに連れて行きたいんです」

夕花がズイッと体を前に出してニッコリ笑った。

黒いよ!!営業スマイルか!!

「なんでだ」

ムッとした顔でカウジェさんが返す。

ちょっと頼むよ夕花ーー!!置いてもらってる身なんだからな!!

「彼もあたし達の活動要員なんです、シリティアには近づけないようにしますから」

「えぇ!!」

ヨイチの不満の声は夕花の笑顔に一蹴された。

「ダメですかね?」

「……シリティア、お前は」

「ユ、ユーカがそう言うなら」

「なら、いい」

えーーーーーー!!


ベンタスはぶっちゃけアルパカでした。

茶、白、黒とかいろんなのがいて元の世界より大きくて、お城の騎士さんもお乗りになるとか。

毛はサラサラ、びっくりすることに耳が寝ている。

しかも髭が猫のように生えている。

「なかなか可愛いじゃないか」

夕花がベンタスの頭を撫でる。

「可愛ーい」

紅葉がベンタスに抱きつく。

「シリティアも触ってみれば?」

「え?」

ベンタス小屋に入ってからずっと俺の後ろに隠れていたシリティアに促した。

顎でベンタスを示すときゅっと唇を固く結んだ。

「そっ、そうね」

恐る恐る手を伸ばしてベンタスに触れる。

固くしていた肩がほっと緩む。

「ちょっと…か、可愛いかも…」

「よかったな」

ベンタスがシリティアの手に頭突きする。

「ぎゃあ!!」

シリティアが悲鳴を上げて飛び退く。


───それを見てシリティア以外の4人は盛大に笑ったそうな。


次は夕さん!

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