ここ...どこ?
「え...?」
俺達は、今目の前に広がる光景にただただ驚いていた。
色とりどりの目が、異様なものを見るようにこちらを覗き込んでいる。
青、黄、緑、紫、赤茶...。
点滅する豆電球のようだ、と思った。
「どこだよ、ここ!!」
「知らねえよ!!」
小さい声で、秋弥──朝霧 秋弥がパニクった様子で訊いてきた。
「おい、夕花...」
夕花──黒井 夕花もいつも眼鏡の奥の冷静な目を混乱したように揺らしている。
どうなってるんだ。
俺───真田 紘斗はいつもは平凡すぎてあまり使わない頭をフルで回して状況を整理しようとする。
ついさっきまで街中の歩道を歩いていたはずなんだ。
そう、本当についさっきまで───。
「あー疲れたー」
学校からの帰り道、秋弥が大きく伸びをしながら言った。
「しかし、暑いな」
俺もそれに返事をするように制服のカッターの前を掴んで扇ぐ。
黒いTシャツのせいでより日光があつまるのだろうか。
「もう嫌だ!!早く家に帰りたい!!」
夕花が汗を拭いながら半分叫ぶように言った。
夏だった。ほとんど日が暮れて昼間よりは涼しいものの、それでも昼間よりは、というだけで十分暑かった。
信号を待つために立ち止まる。
「もうすぐ夏休みだなー」
「でも夏期講習があるだろ。全員参加の」
夕花がだるそうに顔を手で扇ぐ。
駅前のこの道にはパチンコ屋やカラオケ、居酒屋やクラブが結構な割合で並んでいる。
騒音のせいでさらに気分が重い。
スカートをバサバサと扇いで夕花が溜め息をつく。
「新しく開店しましたー、クラブ───ですー」
短いスカートの綺麗な女の人がそう言ってライターを渡してきた。
ライターの装飾で店の名前が書いてあり、なるほど宣伝かと納得。
しかし、何故ライター。
赤信号から青信号に変わって歩き始める。
「あれ?」
秋弥が足を止めた。
「何?」
「こんな店あったっけ?」
秋弥が指差した先には───いかにも怪しげな「占いの館」という名の小さくてポツンとある店。
「うわー」
すごく怪しい。絶対当たらない。
「入る奴いるのか?」
同意を求めて夕花に目をやると、好奇心いっぱいで目を輝かせているのが見えた。
「え...?」
「なぁっ入ってみないか?なんか楽しそうだ」
ニヤリと笑う。
うっわやらしい笑い方だな。絶対今占い師の技をことごとく打破する様子を想像している。なんて意地の悪い奴だ。
「いいぜ?暇だし」
秋弥が賛成すると一層その笑みを濃くして中へ踏み込んでいった。
中は予想通り薄暗く、警戒心が強くなる。
絶っっ対怪しい。壺に要チェックだ。
自分の中でメモをとってそっと壺から離れた。
意外と魔除けグッズを販売しているらしく、いかにもな人形やストラップが置いてある。
何気なく取って見ていると奥から再度いかにもな格好をした人が出てきた。
黒のマントに深めに被ったフード。かなり、いかにもだ。
「いらっしゃいませ、何かお求めですか?」
「いえ、特には──」
「あたしを占ってもらえないか?」
あぁ毒牙にかかった。なんとかして助けたかったのに。ごめん、占い師の人。
図々しく置いてあった椅子に足を組んで腰かけた夕花が楽しげに目を細める。
「わかりました」
座ってしばらく夕花を見つめる。
あれ?水晶とか、いかにもな物が出てこない。
夕花もそれに驚いたのかこちらを見た。
「あ、あぁ、もしかして手を出したほうがよかったのか?」
完全に意表を突かれた夕花の手を制して占い師の人の口がつり上がる。
「これはこれは...興味深い...」
「は?」
「貴女方、お気をつけなさい。災難がそろそろ起きそうですよ」
「え?」
はいきたー!!予想通りの答えきた!!
「そんなこと...」
「信じなくても構いませんよ?私には害はありませんので」
うぐっ...!!
夕花も秋弥も困惑した顔をしている。
そりゃそうだろう。特に水晶を覗くでもなく、手相を見るでもなく、顔を見ただけって。
災難の相がー!!とも言わず、ただ災難が起きると。
そんな占い師がどこに存在するだろう?誰が信じられる。
「でも見過ごすわけにもいきませんし...。まぁ、これを渡しておきましょう」
そう言って占い師と呼んでいいのかよくわからない人は、青く縁取られた手鏡を差し出した。
「ぴっ...ぴた一文も出さねえからなっ...」
秋弥が動揺を隠せずにどもりながら言う。
溜め息をつきながら、占い師の人は肩をすくませた。
「別に構いません。本来の値で売るのなら貴女方には到底買える代物ではない」
「へぇ?」
夕花が興味深そうに鏡を手に取る。
「それが貴女方を守ってくれるよう、祈っています。では」
そう言って奥に引っ込んでいった。
「...え...?」
なんとも言えない気持ちで店を出る。
「...なんか...色々と複雑な気分だな...」
「...なぁ...」
「災難ってなんのことだろうな?」
夕花が鏡を見つめて呟く。
「さぁなぁ。怪しいことこの上なかったけど」
「確かに...」
道路わきの歩道を歩く。
突然、後ろから光が体を覆った。
その光に振り返って────。
────すべて一瞬の出来事だった。
歩道にいる俺達に向かってトラックが突っ込んでくる。
思わず2人を突き飛ばそうと手を伸ばして、手が2人に触れた時───さらに強い光が目に入って目を閉じた。
「...あれ...?」
そして痛みを感じないことを疑問に思って目を開けた瞬間がこれだ。
目の前の人々は見たこともない服を着ていて、髪や目の色が鮮やかだった。
しかし、目に浮かんでいる感情は決して快さそうな感じではない。
「えぇっと...」
人々を見て、自分の中で最高に愛想良く笑う。
人々がざわついた。
「とりあえず、自己紹介でもしますか」