…誰だ、お前
プー太さん、どうもです!
夕、行きます!
騒ぎを聞いてあたしと紅葉が駆けつけると、いきなり登場した男が大男を倒したところだった。
「シリティアに近づくな!!ばーかばーか!!」
なんだ、あいつ…。
大男は起き上がると舌打ちして退散していった。
皆、沈黙して……というより、唖然としてシリティアを支えるその人物を見つめる。
「あれ、誰?」
「…さぁ」
一部始終を見ていたはずの紘斗、秋弥に聞いてもふたりとも「知らね」口を揃えてそう言う。
「あの…いつまで支えてるの?私もう大丈夫なんだけど」
シリティアがおずおず尋ねる。
するとその人物は、はっと我にかえってシリティアを離した。
「――シリティア」
「な、なによ」
シリティアも初対面らしい。
「―――シリティア!」
「だから、なによ!」
男の目が輝いている。
なんだ、格好いいのか悪いのかいまいち分からないやつだな。
「シリティアが僕の目の前にいる…!」
「……え」
「あのシリティアが…!」
シリティアはじりっとそいつから離れると、こっちに向かって走ってきた。
男はと言うと、自分の世界に入り込んでいて、シリティアがいなくなったのに気づいていない。
「シリティア、知り合い?」
自分の背中に隠れたシリティアに紘斗が尋ねる。
シリティアはぶんぶん首を横に振った。
「知らないわよ、あんなヤバい人!」
「へ?」
紅葉が間の抜けた声を出した。
「じゃあ、シリティアを知ってて助けに来たんじゃないんだ?」
シリティアがくるりと向きを変えて歩き出した。
あっちは…家のほうか。
「帰るのか?」
「帰るわよ。ストーカーを捕まえにきて、なんでまたストーカーみたいなのに出会わないといけないのよ!」
まあ、それは気の毒だが。
男を見ようともせずにシリティアはその場を歩き去ろうとする。
が。
「シリティアーーーー!!」
やつは笑顔の全力疾走で追いかけてきた。
はっきり言おう、怖い。
「ひ…っ」
追い付くと男はシリティアに手を差し出した。
「僕はヨイチ。シリティア、ずっと大、大、大大好きでした!」
ひきつった顔で男――ヨイチの手をただ見るだけのシリティア。
いきなりのことに固まるだけのあたし達。
そして、ひとりだけ期待を込めた目で想い人を見つめるヨイチ。
そうか、こいつはシリティアが好きで助けに出てきたのか。
それにしても一方的すぎるだろう。
「……」
「シリティア」
「………」
シリティアの顔見ろ。
あきらかにテンションが違うだろう。
「そ、それで、答えは…」
シリティアがいつまでも黙っているからか、ヨイチがシリティアの顔を覗き込んでもう一度手を差し出した。
「シリティ…「無理」
玉砕とは、こういうことをいうのか…。
シリティアが発した二文字の必殺技に、ヨイチは手を差し出したままの姿で銅像のようになってしまった。
「帰りましょ、今度こそ」
「シリティア、あいついいのかー?」
秋弥がヨイチに目をやりながら聞くと、
「いいのよ。だって…ストーカーのこともあるし、第一あの人テンションが怖いんだもの」
テンションが怖いんだもの。
それは夜の村外れにやけに響いてきこえた。
それからまた少したって、あたし達はヨイチのことをすっかり忘れていた。
「そういえば…最近ストーカーはどうなったんだ?」
「ああ、忘れてたわ」
あたしと紅葉、そしてシリティアが村長宅の一階で話していると、紘斗と秋弥が部屋から下りてきた。
「忘れてた…って、もうなんにもないってことだよな!よかったじゃん!」
「一件落着!だな」
おやつを食べながら、万事屋の初仕事成功を喜んでいた。
……ときのことだった。
ドアが凄まじい音で開いた。
「……げっ」
「シリティア、偶然だねっ」
そこに立っていたのは、茶髪に赤目の、そうヨイチだった。
ごめんなさい、こんなとこでやめて。
秋雨さんに任せよう。