新たな家族
夕です。
紅さん、これからよろしくお願いします!
「なんか…視線を感じる…」
シリティアの家に向かう途中で紅葉が言った。
「制服が目立つんだろ。あとでシリティアの服を貸してもらえばいい」
「ちょっとユーカ!勝手に決めないでよ」
「いいじゃないか。現にあたしも貸してもらってる」
「それはそうだけどっ」
今のあたしの服装は、薄茶のワンピースに黒いカーディガン。
全てシリティアの物だ。
これでも地味なほうらしい。
絋斗と秋弥は村長のつてで村の同い年に貸してもらっていた。
「お願いします。シリティアさん」
紅葉が小さく頭を下げると、シリティアはツンとすまして言った。
「シリティアでいいわ。これから同じ家に住むわけだし」
「は、はい。お願いします、シリティア」
「敬語もいらないわよ」
そんな二人のやり取りを見て、あたし達は顔を見合わせ笑った。
家に着くと奥さんが一人、紅茶を飲みながら本を読んでいた。
村長は村の集会に行くと言っていたか。
「帰りましたー」
すっかり慣れた男ふたりが中に駆け込む。
「お帰り。紅茶入れましょうか?」
そう言いながら、もう紅茶の缶を取り出している。
「私達はいいわ。ユーカ、クレハ、行きましょ」
そこで奥さんが紅葉に気付いた。
黒髪をじっと見て何か考え込んでいるようだ。
まあ、それも仕方ない。この村にあたし達以外の黒髪はいないから。
「あ、私は…」
「もしかしてニホンから来たのかしら?」
「は、はい!園田 紅葉といいます。気付いたらここにいて…」
奥さんは立ち上がってあたし達のほうへ来ると、紅葉に優しく微笑んだ。
「シリティア。あなたの部屋、まだ大丈夫よね?」
「もっちろんよ!」
紅茶の匂いを感じながら、二階に上がった。
「ここが私の部屋よ」
シリティアがドアを開けて中に入ると紅葉も続いた。
「服、好きなの選んでいいわよ」
クローゼットの中に入れてあるのは、ほとんどがワンピース。
しかも派手な物が多い。
あたしはソファーに座って、どうなるか見届るとするか。
「…全部かわいいから迷うな」
紅葉が一着ずつ目を通しながら言えば、シリティアの顔が真っ赤に染まった。
相変わらず褒めに弱いな。
「あ、当たり前よ。私の服だもの」
「シリティアってこういう服似合うよね」
紅葉、それは素で言っているのか違うのか。
シリティアが林檎みたいになったじゃないか。
「これにしようかな…でもこれも…」
これは経過を見るより、シリティアを見たほうが面白いな。
クローゼットの前で、あれでもないこれでもない…と唸っている紅葉をシリティアが押し退けた。
「え?」
「私が決めるわ」
もちろんいつものツンは忘れない。
「別にクレハに似合うのを探したいわけじゃないんだからねっ!」
「探したいんだね」
探したいんだな。
凄まじいスピードでクローゼットからワンピースを選びだすと紅葉にあてる。
「これは?」
「け、結構ハデだね」
「そう?」
おかしいわね…と閉まって次の服を探し初める。
そう、シリティアの選ぶ服はどれもリボンやらレースやらでひらひらしている。
あたしもそんな服を幾つも合わせられて、戦った結果なんとか今の服におさまった。
「じゃあ、これね」
今度のは真っ白のワンピースに水色のリボン。そして青の上着。
「まあ、これなら…うん」
「決まりね!着替えて」
「ここで!?」
「当たり前でしょ、なんなら隣行く?お父さんの部屋だけど」
「うー…」
5分もすると紅葉の着替えは終わった。
今まで着ていた制服はタンスの奥、あたしの制服の隣にしまわれた。
再び着ることはあるのだろうか。いや、考えないでおこう。
「似合うかな?夕花ちゃん、どう?」
夕花ちゃん…。
「似合ってるぞ。あと、あたしのことは夕花でいいからな」
ちゃん付けされるとどうも落ち着かない。
「ヒロトとシューヤにも見せに行きましょ!」
「え?えぇ!?」
シリティアに引っ張られて、あっという間に紅葉は部屋を出ていった。
階段を慌ただしく下りる音と、それを注意する奥さんののんびりした声が聞こえた。
あたしも下りるとしようか。
「ん?そう言えば…」
階段を下りる途中でふと足を止めた。
万事屋のこと言うの忘れてたな…。
秋雨さん任せた。