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嵐の夜に

作者: 宮ノ木 渡
掲載日:2026/01/16

窓ガラスに何かがぶつかるような音で、目が覚めた。

深夜で、部屋は闇に沈んでいた。

遠くで風がうなり、家全体がゆっくりと軋んでいる。


理由もなく、起き上がった。

廊下に出ると、隙間風が冷たく頬を撫でる。

ドアを開けた瞬間、外の空気が一気に流れ込んできた。


夜の大気は、生き物のように脈打っていた。

どこかで巨大なものが身じろぎしているような、重たい波が空間を満たしている。


庭の木々は闇の中で身をよじり、枝と枝がぶつかり合って、不安な音を立てていた。

葉が擦れ合うその音は、まるで無数の声が一斉に囁いているみたいで、静かなはずの夜をうるさく満たしていた。


あまりの気配に、その場から動けなくなっていた。

風の音と闇に押し包まれて、足元の感覚さえ薄れていく。

ただ突っ立ったまま、息をするのも忘れて、嵐のうねりを受け止めていた。


なぜか、胸の奥がひりついた。

嵐に向き合うと、いつも自分が何か悪いことをしたような気分になる。

見えない誰かに責め立てられ、逃げ場のない場所に立たされているような――

そんな感覚が、身体の内側から滲み出してくる。


「そんなに……怒らなくてもいいのに」

誰かの声が聞こえた。

子どもの声のようにも、遠い誰かの記憶のようにも感じる。


しばらくして、また別の声が重なる。


「もう……ぶたたないで」


それは願いというより、長いあいだ繰り返されてきた言葉の残響のようだった。

嵐の中に、過去の訴えが溶け込んで、消えずに漂っている。


けれど、そんな声は嵐には届かなかった。

風は一瞬たりともためらうことなく、むしろ嘲るように強さを増していく。


低く、腹の底から響くような唸り声が夜を満たし、木々は根元から引き裂かれそうに身をよじっていた。

枝がきしみ、葉が飛び散り、闇の中で何かが壊れていく気配がする。


雨粒は屋根に容赦なく叩きつけられ、無数の硬い鞭で打ち付けられているみたいだった。

逃げ場のない音が、家の中にまで染み込んでくる。


どれほど声を張り上げても、風の音にかき消されてしまう。

喉が震えるほど叫んでも、嵐はまるで気づいていないかのように吹き荒れ続けた。


その圧の中で、耳にはっきりと意味を持った言葉が浮かび上がる。


――お前の話は聞き入れない。

――お前の感情は知らない。

――お前の感受性はこちらの問題ではない。


誰かがそう告げているようだった。

実際には誰もいないのに、世界そのものがそう言い渡しているような気がして、胸の奥が冷えていく。


嵐の中では、どんな声も力を失ってしまう。

叫びも、願いも、どこにも届かない。


そこでは、意志も、根源的な明るさも、ゆっくりと削ぎ落とされていく。

自分が自分であるための輪郭が、磨耗して消えていくみたいだった。


もう外に立っていられなかった。

おずおずと背を向け、部屋の中へ戻る。

嵐の音を背中に受けながら、布団の中に潜るしかなかった。


外では、まだ世界が荒れている。

けれど、少なくともここでは、かろうじて息をしていられる。


























最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この作品は、嵐という自然現象と向き合ったときに、

ふと胸の奥に浮かび上がってくる感情を、そのまま言葉にしてみた短編です。


読んでくださった方それぞれに、

何かしらの記憶や感覚が重なる部分があれば嬉しく思います。


感想などありましたら、とても励みになります。

ありがとうございました。

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