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現在は無人のミーティングルームあるいは教室を確認するように一瞬目を向けてから、オーリ君はカウンターのフロントマン風男性に訊ねた。
「ヴェルゼン様はまだおいでになっておられませんか」
「はい。平常ですと正午前にお見えになることが多いので……本日は間もなくお越しになるかと存じますが」
短いやり取りの間にも入り口から何人か連れ立って新たに入ってくる人がいる。中の一人がクルセルさんと顔見知りだったようで軽く手振りで挨拶を交わし、それからオーリ君に気づいてぎょっとした顔になってから慌てて頭を下げる。その位置だとカウンターのほうに向かっているオーリ君からは背中側になるからまったく見えてないと思うんだけど、とりあえず礼をとったって形だけあればオッケーみたいな?
ちょいちょいと手でクルセルさんを招き、「なんか問題あったのか?」と質問しながらちらちらと視線をオーリ君と、それから右手側のほうに交互に送る。
明確な仕切りがないだだっ広い一階の、広場から入った手前寄りの空間は、左手側の壁に近いあたりには守備隊制服の人がたむろしていて、中央にはカウンターと二階への大きな階段で、それから空いているスペースには棚があったり教室めいたものがあったりベンチが置かれていたりと色々で、そして右手側のずっと向こうにはなにやら多くの人が集まっている。
新しく入ってきた人もだけど、クルセルさんたちも目的は右手側の一角であるようだ。入り口をくぐったときから爪先がそっちに向いている。
「ニフニが出たらしい」
「はぁ!? え、マジかそれ」
「嘘でしょ、迷宮組み直しなの!?」
ほとんど悲鳴のような悲痛な声を上げたのは二十代後半くらいのお姉さんだった。シャツにズボンにブーツ姿で、袖無し丈やや長めなチュニックのような形の革装備を着けている。
「いや、俺らもまだ来たばかりで詳しいことは知らんが……」
言いながら彼らはオーリ君のほうを窺う。
「ニフニは新たな習作を置きにきた、と。枚数までは不明だが銅版の追加がある。前例を鑑みれば迷宮の構成が大きく変化している可能性が高いと思うし、既存の銅版にも手が加えられているかもしれない」
淡々と説明しながら、オーリ君は右手側の人が集まっている一角に足を向けた。
「困るんですけどそれ! 運ぶのが面倒な物資迷宮内に置きっぱにしてるんですわたしたち! 迷宮組み直しだと荷物どうなるの!?」
お姉さんの台詞にああ……という顔になるクルセルさんたち一行。
「どうなるんだっけ……?」
「残ってるときは残ってる……はず……?」
「コソ泥に持ってかれたとでも思って忘れとけば?」という無情なアドバイスはジルドナート青年だ。
なんか大変そう。
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