08
うううう、食べ過ぎてしまった。気分的には腹十二分目って感じだ。
せっかくの貰い物だしだとか、ナマモノだから早く食べなきゃだとか、そんなことがついつい気になっちゃって、頑張って詰め込んでみたけど、もう限界です。ギブアップです。
中途半端に少しだけ口をつけた切り身の魚をその場にそっと置いて、わたしは井戸端でごろんと寝転んだ。あーーーお腹苦しいー、しばらく動きたくないー。切り身の原材料の名も知らぬお魚よ、貴殿の献身を無駄にしてしまったことをどうか許してほしい。まあ置いとけばそのうちわたし以外の猫か鳥が持ってくでしょ。
食後のひと休みのつもりだったけど、寝そべって長くなってると眠気がじわじわと押し寄せてくる。
ううむ、こういう人通りのある場所で本格的に寝入るのはマズいと思うんだよね、さすがに。露店の撤収作業の最中にうっかり蹴飛ばされ、とかありそうだもん。野生動物レベル1の新米仔猫でもわかる、寝るならもっと安全なとこにしとけ。
だらりと脱力してへそ天ポーズになると、視界の半分は井戸の屋根で、もう半分は朝の晴れた空になる。
この井戸、ちょっとした四阿のような建物の下にあるのだ。しかもこの四阿、柱の上部になにやら細かい彫刻があったり、軒から下がる飾りが風でしゃらしゃら鳴ってたりする。井戸のクセしてオシャレだ。
広場の他の井戸も同様で、屋根から垂れ下がっている飾りのデザインがそれぞれ異なるという凝りっぷりだ。
こうなると、あの海風の神様のところのお皿と台座のシンプル具合との落差が気になってくる。あの石皿が鎮座する台座オン台座、装飾どころか神様のシンボル的サムシングすらなにもなかったのだ。お皿はただのつるりとしたお皿、台座はただの石組みの台座。石材の色でなにかを表現しているとかでもなさそうな、シンプルの極みを追及しましたって感じ。井戸の四阿に発揮したデザインセンスをあっちにも使うわけにはいかなかったのか。神様関係だから色々と制限なんかあったりするのか。謎である。
そういえば海風の神様って名前なんていうんだろう。お姉さんは海風の神様としか言わなかったからわからないんだよね。海風担当の神様がいるなら、陸風の神様もいそうだ。でないとバランスとれない。季節風の神様やビル風の神様もいるのかな。
……ぼけっと空を見上げながら転がっていて、ふと思い出したことがある。猛禽類やカラスって、民家の庭で遊んでるペットの仔猫やウサギをかっさらうことがあるそうで。猛禽類らしい影は見えないけど、カラスは当たり前に飛んでるし、露店で食べ歩く人のおこぼれ狙いで地面を歩いてもいる。なんなら露店のおばさんがわたしに用意してくれた水、いままさにカラスが飲んでる。さっきの切り身魚もいつの間にか姿を消している。
水を飲み込んだカラスとうっかり目が合ってしまい、お互いじーっと見詰め合うことしばし。
カラスって本当に黒いな、知ってたけど。
わたしのきょうだいキャットの一匹が黒猫だったけど、完全な純黒猫じゃなくてほんのり気持ちブラウンがかかってたんだよね。それに比べるとカラスは文句なしの黒だ。
ちなみにわたしの家族はママが白猫と見せかけて実はほんのり色がついてる笹かま長毛猫、弟が前述の黒もどき猫とグレー一色猫で、妹が真っ白猫と三毛猫、そしてわたしはクリーム色の地に手足の先と尻尾が濃いグレージュの、いわゆるシャム猫柄。さっき水を飲むついでに水面に映った自分の顔を確認してみたら、顔もしっかりシャム猫柄だった。
きょうだいの中でグレーの子と三毛の子はママと同じ長毛だったけど、わたしはなんか微妙な感じだ。尻尾の毛はほわほわ長めだけど、他は長毛猫と断言できるほどじゃなくない?みたいな。もうちょっと成長したらちゃんと長毛猫になるのかな。
それはさておき、ここで惰眠を貪るのはあまりよろしくないかな、やっぱり。このカラスは食べ物に困ってなさそうだから仔猫を狩ることはないだろうけど、近くで見るとでかいのだ、カラス。これにつつかれたら真面目に天国に行けそうな危機感を覚える。
生まれ変わって一年も生きられず鳥に狩られてさようなら、という事態はなんとしても回避したい。
ゆっくり眠れそうな場所探そう、そうしよう。
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