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「あ、猫だ」
「ほんとだ、猫いる」
「変な柄の猫」
ご機嫌でばっさばっさ飛ぶリオニルを追いかけ、ランプ転用ドアストッパーのおかげで出入りフリーなオーリ君の私室を出て二階から一階へ、そして昨日もお世話になった厨房付近までやってきたわたしに向かって投げかけられた言葉がこれである。
へ、変な柄って言われたんですけど! 変な柄ってなに? わたしってクリーム色の被毛に手足の先と尻尾と鼻周りと耳がグレージュというとってもありふれたよくいるシャム猫柄なのに、ここの人たちから見たら変な柄扱いになるの? 嘘でしょ!?
……あ、そういえば前世で暮らしてた世界でも、シャム猫のポインテッド模様は一応特徴的な柄って扱いだったような気も。
猫のわたしは普通にマミーキャットから産まれてきたのであるからして、シャム猫柄がまったく存在しないということはありえないわけだけど、もしかしたらこの世界におけるシャム猫模様な猫の原産地はここから離れた土地で、原産地から持ち出されたシャム猫模様の猫があちこちに広まりありふれた柄になる前段階だったりします?
見慣れない人たちからしたら変な柄の猫になるのかわたし。えええそうなの? なんかショックなんだけど。可愛いでしょシャム猫柄!
「こんな猫いるんだな」とか言われてるし、マジでここの人たちには見慣れない柄の猫らしいです。
オーリ君も昨日のメイドさんたちやラシェト卿もなにも言わなかったけど、もしや皆さん内心では変な柄の猫……って思ってました? えー……。
いきなりの変な柄の猫扱いに衝撃を受けてしまったわたしだけど、「俺の地元だとたまにこういうのいたな」という声にぴんと耳が立った。
「出身どこだっけお前」
「カロル市。つかエル・カロルだろうがよ」
「いちいち名前全部覚えてねーわ」
なんかカロル市ってところにはシャム猫模様キャットがいるらしいです。カロル市がどこか知らないけど、わたしのルーツがそのあたりだったりするのだろうか。
「え、お前ガチのカロル出身だったの?」
「そうだけど?」
「へー、てっきり家名だけエル・カロル組かと」
「なんでだよ!?」
お喋りしているのは、お隣の敷地に本拠地を構える集団と同じ、ダークグレーの制服を身に纏う男性グループである。
厨房の手前にちょっと広めの部屋があって、テーブルと椅子が並び、どうやら使用人――いや、この人たちはたぶん警備の人かな、とにかく働いてる人たち用食堂っぽい雰囲気なんだけど、そこでがつがつ料理を平らげながらの会話だ。
なんかすごい勢いで食べててちょっと引く。成人男性の手くらいありそうなパンが次から次へと男たちの口に消えていく。もうちょっと落ち着いて食べたほうがよくない? 消化に悪そうだし朝からがっつくのどうかと思います。
「だいたいよそから来た人間が飼ってるのや船で飼われてるのだったから、よその国の猫なんじゃねえの」
へえ、つまりわたしのようなシャム猫柄キャットはルーツ外国なわけね。船便に運ばれてどんどん勢力を拡大している段階ってことかな。それでまだまだこの国だと珍しいと。だからって変な柄呼ばわりは遺憾ですが。
「いいよなあ、大都市生まれ」
「流行の最先端。カロルなら珍しい食い物なんかもどんどん入ってくんだろ」
「おう、羨め羨め」
「お前たしか親も兄弟もいるよな? 今度実家から旨い物送ってもらえ、そして俺らに分け与えろ」
「ざけんな、カロルからここまでどんだけかかると思ってんだ。届く前に腐るわ。そういうお前こそ実家王都だろうがよ」
もしや生まれ育った土地を離れて単身赴任な人が多かったりするんですかね、この集団。
それにしてもなんか……どこの世界でも地域格差みたいなのあるんですね。
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