05
「一人で昇ったのかしら、すごいわねえ」
そんなことを言いながら、お婆さんはわたしの耳と耳の間を指先で撫でてくれた。いえ、わたしはママに運ばれてきただけでまったく自分の足は使ってないです。
あ、そうだそうだ、わたしがいまいる場所の説明の続きだ。
わたしが石でできている深皿の中にインしているのはさっき言ったとおりだけど、その深皿が置かれているのが、石組みの台座の上なのだ。
お皿の中から首を伸ばして外を見てわかったんだけど、わたしがいるのは白っぽい石が組み合わされている台座の上に置かれたお皿の中、台座の高さはお婆さんの腰くらい。そしてその台座が設置されているのは、四角錐台の形をしたもっと大きな台座の上だ。台座の二段重ねですね。下の四角錐台のほうには数段の階段があって、お婆さんはそれを上ってきた。
そんなわけで、わたしは高みから人々の活動を見下ろすことができるのである。
台座が位置するのが広場の端で、ちょうど全体を見渡せるベストポジションだ。
お婆さんの目的は愛らしい仔猫を愛でること……では当然なくて、わたしの居座っているお皿に小袋を追加しにきたらしい。
緑色の丸い形をした布袋で、赤いリボンが結ばれているそれをお皿の中にわたしを避けてそっと置き、そして両手を組み合わせて目を伏せ――。
これは、お祈り、だろうか。
台座の上にあるのはお皿だけ。あ、あと雨避けかな、これも石造りの柱で支えられた屋根があって、それだけだ。だからお祈りを捧げるならその対象は、この石のお皿――なのか? うーん?
きょろきょろ周囲を見回しても台座の上には他になんにもないしなあ。あ、でもこのお皿の役割ってどっちかというと、お祈りを捧げる先というより神社の賽銭箱的なやつのような気も……? ということはお賽銭に相当するのがこのちっちゃい布袋なのだろうか。それか、神社――はないだろうけど、とにかく神社的ポジションなところで布袋を買ってきてここのお皿の中に納めるとか、そういうあれだったりするのかも?
うむ、どれだけだらだら考えてみても正解がさっぱりわからない。目の前のお婆さんに質問しようにも、「にゃーん」だし。
一応わたしなりに頑張って、にゃーんのひと鳴きに「突然申し訳ありません、つかぬことをお伺いしますが、この石の器と小袋はどのような意味があるものなのでしょうか。あと現在地どこですかできれば国名からお願いします」の意思を詰め込んではみたんですよ。
もう全然これっぽっちも伝わんないし。いやさすがにこれが伝わるとか本気で思ってはなかったけど、実際に、自分は猫、相手は人間で当たり前に意志疎通ができないという現実を目の当たりにするとちょっと凹む。
しょうがないんだけどねー、わたしはただの猫だし、お婆さんは猫語のスペシャリストでも動物の気持ちがわかる超能力者でもなかったというだけのことだ。
あー、わたしが人間だった生前に遭遇した犬猫たちも「こいつこっちの言いたいこと全然わかってねえな!」なんて思ってたのかなー……。
――ところでいきなり話は変わるけど、このお皿の中にいっぱいある小袋やリボン、おもちゃにして遊んだらダメだろうか。仔猫の本能的にちょっと惹かれるものがあるんだけど。
……ダメですよねー、はい。
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