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わたしは漠然と一人を複数で囲んでなんかやってるなーとしか思っていなかったんだけど、どうもこの訓練、ベテラン一人に対して新人五人で組んで挑むというものだったらしい。
中断の号令で一旦動きが止まれば、わりと平然とした顔で姿勢を正してラシェト卿の声に耳を傾ける人と、疲労困憊よれよれ姿勢に気を配る余裕なんてありませんな人とで、明確に二分されている。ぜえはあ息を切らして立っているのもやっとという有様なのはまだマシなほうで、立っていられずその場でへたり込んでしまう姿も多い。
これ疲労でヘロヘロ組の人たちラシェト卿の質問内容まともに聞けてないんじゃないかと心配になってくる。ラシェト卿がいくらよく通る声の持ち主でもへばってる皆さんにそれを聞けるだけの体力集中力的なリソースあるの?って意味で。
案の定、「え、いまなんて?」とかぼそぼそ言い合ってるし。あと「うわ、竜いる!」というのも聞こえてきた。リオニル人気者じゃん。当のリオニルは我知らぬ顔でおとなしく肩乗りドラゴンをやっている。通用門を通りこっちに来るまでは好き勝手に飛び回ってはオーリ君のところに戻り、と自由に動いていたんだけど、こちら側の敷地に入ってからは別竜のように静かである。まさかこいつ内弁慶か。
というかこの世界の現地民の人たちにとっても竜ってあまり見ない生き物なのだろうか。数時間前に空から降りてきた伝令の緑竜スルフェルとかいるから目撃する機会はそこそこありそうだけど、間近で見ることはそんなにない、ってところかな。守備隊のお兄さんたちもスルフェル見に行きたがってたし。あまり公道で見かけることはないけど超のつく高級車に比べればそれなりの台数が世に出ているスポーツカー、くらいのレア度だろうか。
疲労で頭が回ってない人半数、そもそも質問を聞き取れてない人半数、といった感じの面々を見渡して、ラシェト卿は小さく舌打ちした。余裕ありそうな推定ベテランの人たちはどうも質問の対象外らしく、こちらは沈黙を守っている。
「もう一度言うぞ。これまでに訓練で実物の魔物を使った際、標的として支給された魔物の数に対して訓練中に倒した数と返却した数が一致しないのを誤魔化しやがった奴はいるか。ないなら問題ないが、心当たりがある場合は速やかに申告しろ。まず第一班!」
ラシェト卿の目線の先、五人全員が揃って仲良くへたり込んでいるのが第一班のようだ。慌ててお互い顔を見合わせ小声でなにやらやりとりしたあと、一人が立ち上がり「ありません!」と叫んだ。
「よし。第二班!」
「そのような行為は断じて行っておりません!」
「次、第三班――」
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