30
「ほらこの子よ、林檎の樽から出てきた子」
「あらぁ、可愛らしい猫ちゃんじゃない」
「こんにちはー林檎漬けちゃん」
「林檎が好きなのかしらね」
悲報、わたしの名前が林檎漬けで定着する危機続行中な件。
皆さん迷い込んできた仔猫に優しいのは大変に有り難いのですが、名前は一考願います。ちょっと林檎から離れて。
現在わたしがいるのは厨房である。オーリ君が「すぐに戻るのでしばらくお願いします」とわたしとリオニルをまとめてメイドさんたちに預けていったのだ。
どうやら厨房は夕食の下拵えが終わり本格的に調理にかかる前の休憩時間だったらしく、四人のメイドさんがテーブルでお茶と軽食を楽しんでいるところだった。さっき温室にも顔を出していた濃灰色ワンピースのメイドさんと、わたしがこの街で林檎樽から解放されたときに会っている青ワンピースのメイドさん、それから初めてみるメイドさんが二人。初顔の二人はどちらも三十代半ばから後半くらい。紺色の地に白い小花模様のお揃いのワンピースを身に着けている。
ここの厨房、けっこう……いや、かなり大きいと思う。壁側に大きな窯が三基、それから台の上で火を熾こして上から吊るした鍋を温められる大きな囲炉裏みたいなのがある。炉の上の調理器具吊り下げ用の鉤は五つ。明らかに対大人数を想定したキッチンで、それこそ二十人くらいが立ち働いていても全然余裕があるレベル。なのにここにいるのはメイドさん四人だけで、第一印象がらーんって感じ。
わたし的第一住民な青ワンピースのメイドさんがいたからてっきりここの厨房がわたし入り林檎樽の配達されたところかと思ったんだけど、どうもそうじゃなかったようだ。さっさと抜け出したからじっくり観察なんてできなかったけど、明らかに厨房の様子が違っている。林檎樽から出たときの厨房はこんなに広くもがらーんともしてなくて、もっと熱気と活気があったような。
まあわたしには厨房人いなさすぎ疑惑よりもお裾分けのお肉の切れ端のほうが重要なんだけど。メイドさんたちの軽食はクレープやトルティーヤみたいな薄い生地に各々好きに肉や野菜を巻いて食べるラップサンドで、にゃーんとねだればメイドさんたちは喜んで具材の肉や野菜をわけてくれる。リオニルも厚めにスライスされた肉を貰ってご機嫌で食べていた。
そういえばあれだけ執拗にズタボロにした蛇は食べなかったんだよね、このちま竜。あれお食事目的の狩りじゃなかったんかい。目の前で狩りたての獲物をばりばり貪る場面なんかあまり目撃したくないから別にいいんだけど、蛇の末路を思うと若干哀れな……いやでもあの蛇わたしのこと燃やそうとしてきたしな、うん……。
※書いている人間は絵文字、とりわけ黄色のフェイスマーク全般があまり好きではないため、リアクション機能の使用は控えていただけると助かります。




