02
遡ること数時間前、わたしは猫の母親ときょうだいたちと一緒にいた。
親猫一匹、仔猫がわたしを入れて五匹の計六匹家族である。
わたしたち家族の住処は、放置されている物置小屋かなにかだったのだろうか、空の木箱と樽が詰め込まれた小さな建物だった。誰か――つまり人間の気配はまったくなかったし、壁にぽっかり開いた穴からママ猫が出入りしているような有り様だったので、現役で使用されている小屋ではなさそうな感じ。
そしてこんなところに居着いているママは、人間に飼われている猫ではないようだ。食料は人間に貰っている――あるいは人間の肉屋さんから売り物くすねているようだけど。まあ毎日のように猫にお肉をかっさらわれて黙っているお肉屋もそうないだろうし、どこかの親切な人が食べる物を恵んでくれていたんだろう。たぶん。メイビー。
人も来ないし、猫にとっては脅威になる犬も、仔猫を襲うとかいうカラスもいない、木箱や樽の隙間に潜り込んでかくれんぼもできる、猫目線で実に快適な我が家だった。ちょっと埃っぽかったけど。
わたしの意識が、正確に言うなら一にゃんこではなく朱居泉葉の人格やら記憶やらがこの仔猫の身体の中に生えてきた頃、猫のわたしにとってのマイファミリーはすでにこの小屋に居着いて、日々にゃーにゃー元気に暮らしていた。たぶんママはここで出産して、そのまま子育て拠点にしたんじゃないかな。
わたしたち五匹きょうだいは基本この小屋の中だけで過ごし、たまにママの出入り口になっている壁の穴からちょっこっと顔を出して外の様子を垣間見るだけという、安全箱入り生活を送っていたのである。
いつものように真夜中に起き出してきょうだいたちと小屋の中で暴れに暴れ、すっかり疲れて気持ちよく眠りに落ちようというところだった。
きょうだい五匹もつれ合ってうとうとしていると、ママが静かに寄ってきた。
ママも一緒にお休みするのねー、なんて思ってたら、違った。
きょうだいのうち、わたしの頭をそっと舐め、そしてママはわたしのうなじを咥えた。あれです、首根っこを咥える猫運び。
かくして、わたしは半分寝こけた状態でママ猫に運ばれ、生まれ育った物置小屋を離れたのだった。
途中、どういう場所を通ったのかは覚えていない。
……だって見てないんだもん。眠かったし。ほとんど寝てたし。わたしいま仔猫だし。猫は寝るのが仕事なので仕方がないのである。
どこかにそっと下ろされた。眠い目を頑張って開き、ママを見上げる。ほぼサイレントでにゃーとひと鳴きして、ママはまたわたしの頭を舐めた。
なんとなく、なんだけど、わたしにこの場所にいてほしいらしいのは伝わってきた。
あー、そういえば猫って子育て中はちょくちょく引っ越すんだっけ? うーん、いままでの小屋で特に不自由も危険も感じなかったけど、ママにはなにかしら思うところがあったのかも?
そう納得し、わたしはその場で丸くなったのである。
……だって眠かったんだもん。
それに、ここにいればママがきょうだいたちも運んでくるって思い込んでたし。
なのに、目が覚めたら見知らぬ場所で一匹ぼっちである。ママもきょうだいもいない。
お母さまー、ママー、マムー、マミー。弟に妹ー。にゃーにゃーにゃーにゃー声を上げて呼んでも誰も来ない、返事もない。
わたしは途方に暮れた。
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