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オーリ君は自分の手を盥に浸し、少し水を足して温度を調整する。わりと細かいところに気を遣えるタイプかこの少年。
それはいいんだけど、わたしにはお湯の温度より気になっていることがありましてですね。
「にゃあ!」
さっきの、盥の水が一瞬にしてお湯に変わったやつ! 地味だけどあれって魔法じゃないの!? 魔法だよね! それとも特殊な道具の不思議パワー? もう一回やって! できれば解説つきで!!
――と言いたいわたし。しかしながら如何せん猫なので、声を出してもにゃーみゃーにゃあんである。
「はいはい、頼むから暴れるなよ」
「にゃー!」
暴れたりなんかしません、失敬な。被毛をべたべたにした果汁が乾いてからも林檎の匂いがまとわりついてるし、毛はぼさぼさだし、全体的に汚れてるしと散々な有様なので、洗ってくれるのは歓迎だ。それはそれとして魔法! 魔法見たい! 魔法ー!!
前足でたしたしオーリ君の手を叩く。傷つけるつもりはないので爪は立てない。わたしの考えていることがオーリ君に伝わるわけもなく、水を嫌がる仔猫の控えめな抗議くらいにしか思われていないのは明らかだ。意志疎通できないってほんと不便。魔法があるなら動物と会話できる魔法とかテレパシーの使えるようになる魔法道具とか都合よく存在していないものか。ほら、フィクションにはよくあるじゃん、使われていない古い倉庫の中に実は特別な装備品が眠っていましたってやつ。あんな感じでわたしも都合よくなにかゲットできたりしないかな。世の中そんなうまくいくとは思ってないけど、夢を見るのはただだ。
にゃーにゃー鳴きながら大人しく洗われていると、リオニルが寄ってきた。こいつ野良ドラゴンじゃなくてここで飼われている竜らしいけど、鎖で繋ぐでも檻に入れるでもない完全放し飼いっぽいんだよね。空飛んででっかい蛇を仕留める爬虫類が放し飼いって。いや竜も爬虫類扱いでいいのかどうか知らないけど。
わたしが日本で生きている人間でリオニルが読んでいる漫画や遊んでいるゲームの中に登場する竜なら、子どもの竜から自由を奪うなんてちょっと可哀想じゃないかと思っただろう。でも同じ世界で生きていて自分がひ弱な仔猫となれば考えも変わろうというもの。こいつわたしから見たらただの脅威ですから!
猫は食べる物ではないと一応の理解はあるのか、リオニルは盥の中のわたしを興味深げに眺めるだけでちょっかいをかけてはこない。そばにオーリ君がいるからいい子にしてるだけの可能性は否定できないが。
こうやっておとなしくしているとただの格好いいファンタジー生物なんだよこいつ。小さいけど可愛い系じゃなく格好いい系。これの大きいのが群をなして優雅に飛んでいたらさぞかし壮観だろう。
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