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温室に加えて廊下の片づけもベオラード・オーリ君に指示し、さらに蛇(ご遺体)の始末も命じて、殿下は立ち去っていった。
余談だけど、歩き方にわずかな違和感があったので、殿下の杖は装飾品ではなく実用品なのかも。
「適当で大丈夫ですよ」
「雑草みたいなものですからね、丈夫なんで土に差して水かけておけばまた勝手に伸びます」
そうころころ笑う濃灰色ワンピースと青ワンピースのおばさま二人。その手は忙しなく動き、なぎ倒された植物から葉っぱをむしってはバスケットに放り込んでいる。
わたしを林檎漬けなんて呼んできた青いワンピースのおばさま、どこかで聞いた声だと思ったらあれですよ、わたしが林檎樽に入ったまま納品された厨房にいた人。彼女のおかげで危うくわたしの名前が林檎漬けで定着するところだった。ベオラード・オーリ君なんて「ふうん、変わった名前だな」くらいにしか思ってない顔してたからね。林檎漬けなんて猫につける名前じゃないってば。
リオニルが荒らした温室で育てられていたのは、主に厨房で消費する目的の野菜と香草だったらしい。幹がべきっとやられて復活が難しそうなのは収穫してさっさと使ってしまうようだ。
よかった……、超貴重な保護植物だの高価な観葉植物だのの温室じゃなくてほんとよかった。犠牲になったのが高額稀少植物だったらさすがにわたしの心も痛んでいた、やったのはリオニルだけど。
ベオラード・オーリ君、長いからオーリ君でいいや、メイドのおばさまたちがオーリ様って呼んでるし。
オーリ君はまず廊下を確認しに行き、しばらくして温室に戻ってきてからはせっせと倒れた鉢を元に戻している。
ちなみに竜のリオニルは温室の隅で地植えの植物、たぶん葉野菜の上で丸くなって眠ってます。おいこら元凶。
わたしはというと、特にやれることも行くあてもないので、棚の上から人間三人の片づけ作業を見守りながらうとうとしていた。猫は寝る子なのでよく眠るんです。
はたと気づいたら片づけはあらかた終了して、温室にいるのはわたしとオーリ君とリオニルだけだった。
温室内にさりげなく存在していた手押し式の井戸のところで、オーリ君が盥に水を溜めている。植物に水遣りするのかなーと思いながら見ていたら、オーリ君に片手で持ち上げられ、盥のとこまで運ばれるわたし。
これはもしかしなくても汚れた猫を洗おうとしている図。林檎果汁でべとべとボサボサになったところに雑木林を駆け抜け温室で暴れて、砂と泥だらけだもんね、わたし。
と、オーリ君はなにもない空中で右手の指先を、文字を描くように動かした。
うん?
うん!??
なんか目の前の水が張られた盥、いきなりほわほわ湯気が上がってない?
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