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ベオラード・オーリ君の弁明――曰く、少し目を離した隙にリオニルがどこかに行ってしまった。慌てて捜索にかかったがなかなか発見に至らず確保が遅れた。屋内では暴れないよう教えておりリオニルもそれは理解したものと考えていたが、獲物を追いかけるのに夢中になるあまり忘れたのではないかと思う。
殿下さんの訓告――曰く、幼い獣のことなのである程度は仕方がないが、このようなことが頻発しないよう、重々気を配ることを求める。幼体であっても竜は竜、只人にとっては充分に脅威となりうる存在であるので、あまりにも好き勝手に行動するようではのちのち大きな問題を起こしかねない。また、あまり妙なものの味を覚えさせないように。近隣の愛玩動物、使役動物、家禽の類を襲うようになっては困る。
……妙なもの呼ばわりされているのは、もしやわたしでしょうか。いえ、おっしゃる内容についてはとても同感なのですが、妙なものって。言い方ー。
当事者のリオニルはなにやら機嫌よさげに長い尾をぱったぱった揺らし、きゅるるとか小さな鳴き声を発している。こいつ状況をまったく理解してないんじゃないの? 飼い主なのかお世話係なのかは知らないけど、自分の関係者が偉い人からお叱りを受けてる場なんだから、少しは空気を読め。
ところで殿下というのは皇族や王族の方に対する敬称の殿下で合ってます? 本物の偉い人ですかこちら様。
ベオラード・オーリ君は殿下の配下ってところかな。装飾のレベル差はあっても着ている装束が明らかに同系統だもんね。あと、殿下の両手にある黒い紋様と同じようなものがベオラード・オーリ君の手にも浮かんでいる。全体的に殿下のものより少しシンプル、かつ右手にはがっつり入っている紋様が左手側は大胆に省略されているのは上衣の装飾と同じだ。ぱっと思いつくのは身分役職位階などの違いによる差とかだけど、果たして正解はなんだろうか。
ぱたぱたと軽い足音が聞こえてきて、殿下の背後、温室の入り口から初老のおばさまが顔を出した。着ているものは濃灰色のワンピースにエプロン。いわゆるメイドさんの姿。
続いて現れたもう一人、濃灰色ワンピースのメイドおばさまより少し若そうに見える女性は、エプロン姿は同じだが青い色のワンピースを着ている。
「あらまあ、大変。どうなさったんです」
温室内の惨状に目を丸くするメイドさん。壁や天井のガラスに被害がないだけまだマシと思うんですが、どうでしょうか。ダメですか。
「子どもが暴れただけだ。後始末はベオラード・オーリが行う」
あ、罰掃除だ。
「廊下のほうはいかがなさいますか、御城主様」
そう訊ねるメイドさん。
……廊下? 廊下……あー、爆走している最中になんか壁のタペストリーとか引っかけたようなおぼろげな記憶があるようなー、ないようなー。
「あら、その猫――さっきの林檎漬け」
聞き覚えのある声がわたしに向かってそう言った。青いワンピースの人だ。
「……林檎漬けという名前なんですか、これ」
違います。
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