01
さようなら人生こんにちは猫生するより前、要するに生前とか前世とかそういうあれ時代のわたし、朱居泉葉十八歳は、日々をそれなりに真面目に生きる大学生だった。
別に芸能事務所からスカウトされるレベルとまでは言わないけど顔、スタイルともにそこそこいい感じの外見、怪我も病気もない完璧な健康体、入学したのはまあまあ名の通った大学で、頭の出来だって悪くはない……はず。
将来のことはそりゃわからないけど、間違いなく順調に進んでいたわたしの人生が唐突に終了したのは、とある金曜日の午後のことだった。
三コマ目に合わせていつものように十二時五十分頃に階段教室に入り、中央の前から三列目に席を確保したわたしは、教壇の上、教卓の横に段ボール箱が置かれていることに気づいてはいた。
うん、まあね、けっこう大きかったからね。そりゃイヤでも気がつくわっていうか。
で、段ボール箱の存在に気がついてどうしたか。
なんにも。
――――いや、だって、ちょっと考えてみてほしいんだけど、ただのどこにでもありそうな少し端の潰れた段ボール箱が、どこかのスーパーから調達したのかスナック菓子のイラストが側面にでかでかとある段ボール箱が、そこに置いてあるからって、即、なにかしなきゃって考えに、ましてやヤバい不審物だーとかこれは怪しいぞ警備室に一報だーとかそういう発想になる???
特に気にせず段ボールだなーでスルーするか、せいぜい次の講義で配布するレジュメを箱に入れて運んできたのかなーとか、それが多数派じゃないかと思うわけですよ、ええ。
ちなみに白状してしまうと、わたしは「なんか段ボール箱あるなー」でスルーしました、はい。
結果どうなったかというと。
十三時のチャイムに重なって教壇の段ボール箱から聞こえてくるピーという電子音。なんだなんだと段ボール箱に注目する学生たち。
チャイムの余韻が消えても単調な電子音はまだ続いている。わたしより前方、最前列に座っていた男子学生が立ち上がりかけていたのは覚えている。
そして、突然、バンッという破裂音が聞こえた――ような気がする。正直そこはあやふやというか、聞いたような気がするのは確かだけど本当に聞いたと言い張れるほどには自信ないというか。
とにかく。
わたしの人生最後の光景は、眼前に迫りくる無数の金属片だった。
爆発物の威力を上げるために釘とかガラスとか仕込んでおくケースがあるとかなんかで耳にしたことがあるけど、あの段ボール箱もそれだったんじゃないかと思う。
こうしてわたしの人生は終了したのであった。合掌。まさか大学の中で爆発物に殺されるとは、予期せぬ人生の終わりにもほどがある。
そこからなにがどうなってこうなったのかは不明だ。
三途の川を渡った覚えも閻魔大王の法廷に立たされた記憶もなにもないまま、わたしはいつの間にかにゃーにゃー鳴く生き物になっていた。
そして現在ただいまどこかの街角で、わたしは一人ぼっちである。いや、猫だから一匹ぼっち?
とにかくマミーキャットもきょうだいキャットもいない場所でにゃーにゃー鳴いているわたし。
……ぶっちゃけ、なんかイヤな予感がするんだよね。
具体的にはマミーキャットに置き去りにされたような気がするというか、捨て子された気がするというか。
猫って捨て子するんだ……。
えー、マジかー、そっかー……。
※書いている人間は絵文字、とりわけ黄色のフェイスマーク全般があまり好きではないため、リアクション機能の使用は控えていただけると助かります。




