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皮膜の翼をほとんど動かさないまま滑空する竜の姿は、そのまま街並みの向こうへ消えた。
なにあれ、なにあれ、なにあれ……!!
わたしの知ってる世界にはあんなの存在してませんけど!?
ヨーロッパの街を歩いていたらいきなりファンタジーに殴りかかられた気分だ。人間から猫に生まれ変わったのだってファンタジーだろって言われればそりゃそうだけど、ただの生まれ変わりと伝説生物登場じゃファンタジー濃度が全然違うじゃん!
ぶわわっ、と、うなじから尻尾の先まで毛が逆立つ。人間だったら全身鳥肌だ。「うわ、毛がすげえ」なんてお兄さんが面白がるような声で言いながら頭を撫でてくれたけど、それどころじゃない。
あのですね。あれ、なんかおかしいなーってところどころで思わなかったわけじゃないんですよ。日本であろうと外国であろうと、大勢の人間がいて誰一人スマホもタブレットも持ってないなんてちょっとあり得なさそうじゃないですか、現代では。
皆さんが着ている服も、普通なら着用率高そうなジーンズとかスニーカーとか見事にゼロだったからね。そもそも服装に関しては形も色もバリエーションが現代のものとは明らかになんか違うなーって。あと鞄。ナイロン製リュックサックとかボディバッグとか、どこ行っても使ってる人いそうなアイテムなのに全然見なかった。
だから、ここ現代じゃなくない?とは薄々感じてはいたのだ。猫に生まれ変わった際、日本から欧州のどこかに移動して、ついでにタイムスリップもしちゃったのかな、とか。
朝市の広場で見かけた値札らしきものに書かれている文字がまったく見たことないものだったりもしたけれど、でも、たとえ同じ国でも時代が変われば文字なんて全然違うじゃないですか。それどころか同じ時代を生きる人のガチ草書体すらちゃんと読める自信ないし、ていうかたぶん読めないし。それでもって明らかに日本とは違う国、違う文化圏なんだから、もう完全に未知の文字が普段使いされててもそんなものかなーって思っちゃうじゃん。
まあタイムスリップで移動した過去のどこか説はなんの脈絡もなく出てきた竜によってたったいま粉砕されたわけですが。
猫生二ヶ月半(推定)を過ぎてようやく悟る。ここ、わたしの生きていた世界じゃない。
「緑竜スルフェル。マルロー卿ですね、あれ」
「ああ、あの口喧しそうな。……爺さんに無理させてんな」
「爺さん抜いたら誰も残りませんよ、竜騎士。いまなら平均年齢の高さで有史以来の大陸に存在した全部隊を相手に一、二を争えます」
「来年再来年あたりで部隊消滅しそうだよなあ、いつぽっくり逝っても不思議じゃねえ年寄りだらけだ」
「御城主のとこのは配属どうなるかわからないですしね」
頭の上では年長二人がこんな会話を交わしていた。よくわからないけど竜騎士社会は高齢化問題が深刻らしい。
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