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「猫はいいよなー。なーんもしなくてもちやほやされてさー」
そんな言葉とともにわざとらしいため息が落ちてくる。そしてちょいちょいと引っ張られるわたしの耳。
うん、猫の耳ってさ、薄くてひんやりしてて触るとぴこぴこ動いたりして、ちょっと楽しいよね。わっかるー。
わかるけど、かつて人間やってた経験もあり、猫に生まれてからはきょうだいたちの耳や尻尾にちょっかいかけて遊んだことも多々ある身として気持ちは大変によくわかるけど、だからってわたしに無断で触るのはNGです。寝ている最中であれ起きて活動中であれ耳を玩具にされるのは気分がいいもんじゃないので。けっこう敏感なんですよ、これ。ダブスタ女とでもなんとでも好きに謗るがよい。
ところで――わたしにちょっかいかけてくるこの声の主は誰だ。
相手を見極めてやろうと姿を探すけれど、なんだかよく見えない……ではなく、わたしの目がちゃんと開いていないのが原因だった。
どうやらわたしはいつの間にか寝こけていたらしい。急速に覚醒して目を開いたわたしを出迎えたのは、上から興味津々のお子様たちに覗き込まれているという謎状況。
いや、銅版迷宮から出てきてからもずっとオーリ君にくっついていたんだけど、ほら、猫ってよく眠る生き物じゃないですか。ましてやわたしは仔猫である。お子様にとっても睡眠は大切でしょ。たぶん。言い切れるほど猫の生態にも乳幼児の実態にも詳しくはないけど。たぶんそう。
そんなわけで睡眠欲に負けたわたしを、親切な誰かがバスケットの中に寝かせてくれていたらしい。パンやフルーツ、食べ物以外なら毛糸玉あたりを盛るのによさそうな丸いバスケットで、ちゃんと寝心地よくなるようにわたしの身体の下には布地を折り重ねてある。どこのどなたの仕事かは存じませんがありがとうございます。
「猫ちゃん起きちゃった」
「ほらー、ミケのせいで起きたー」
「ミケが猫ちゃん起こしちゃった」
ミケってなんか猫っぽい名前ですね。
「はあ? ちょっとつついただけだろ。関係ない」
あ、この声、さっきの「猫はいいよなー」の声だ。声変わりの最中なのか、少し高めの掠れ気味な少年の声。この声の子がミケちゃんらしい。君、つついただけじゃなくてわたしの耳の先持って引っ張ってなかった?
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