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――猫はいいよなあ。
そんなセリフが口癖だった人がいた。
わたしが日本で朱居泉葉をやっていた頃の、高校の同級生だった男子だ。
わたしたちが通っていた高校の正門前には、可愛らしい外観で扱っている商品もラブリーキュート方向全振りな雑貨屋さんがあった。そのお店の出窓にはいつも、ディスプレイされた商品を押しのけて大きな猫が寝そべっていて、彼はしばしばこの出窓の前に立って猫を眺めながら言ったのだ――「猫はいいよなあ」。
猫って明らかに勝ち組じゃん。一日中ごろごろしていても許されるし、見た目だけで世の中渡っていけるし、というのが彼の言い分。野良猫に生まれたって人に拾われるチャンスはあるし、運がなくて殺処分になってもきっと誰かが哀れんでくれるじゃん――?
そういう本人はというと、客観的に見て勝ち組に属している人間だった。顔よし、スタイルよし、成績は文系理数系どちらも二位以下に大きく差をつけて首位、運動神経良好。さすがにスポーツ系は本気で全国大会目指してますプロ志望ですな人たちには劣るものの、基本的になんでもそつなくそこそこ高いレベルで熟せるタイプ。
本人の自己申告によれば、成績は持てる時間をすべて勉学に突っ込んで維持しているだけ、運動は動画やら教本やらでよさげな動きを学習しまくっているだけ、顔は天性のものだがスタイルにはめっちゃ気を遣っているし、ニキビができやすいから皮膚科常連だし、とかなんとか。
努力でそれらを維持できるっていうのがもう選ばれし人の証明じゃないのー?とわたしなんかは常々思っていたわけですが。
加えてこの彼、人柄もそれはそれはよろしかった。
男子女子問わず友達たくさん、いつもみんなの輪の中。
まあ、女子の間では、友達としてはいいけど彼氏には向かない人とも囁かれてはいたけど。なんかねー、わたしが知る限りでも同級生女子の中のけっこうな人数が彼とのおつき合い経験ありなんだけどねー、告白してつき合って一度、二度くらい二人で遊びに行って、それでやっぱりわたしたち友達に戻りましょう、で毎回終わり、みたいなー。それで人間関係まったく険悪にならなかったのがすごいんだけど。
そんな彼は、大学受験を間近に控えた高三の秋、帰らぬ人となった。
死因はナイフによる刺傷二ヶ所。犯人はその頃わたしたちの通っていた高校周辺に出没していた通り魔で、被害者の中で死者は彼一人、そして一連の通り魔被害で彼が最後の被害者だった。
なんでも、二ヶ所刺された上にナイフを抜かれた時点で致命傷、即搬送されてもほぼ死亡確定だったそうです。そんな状態でなにをどうやったのか、意識を失うまでの短時間で通り魔の膝をぶっ壊して逃走を防いだのだそうです。
かくして彼は被害者であると同時にヒーローになったわけだけど、その後の出来事がちょっとあれというか、なんというか。
同級生が急死したとなったら、当然お通夜や葬儀に出席するかどうかとか、そういうの考えるでしょ。誰かが代表で、とか。
なのに彼の葬儀の話が全っ然、出てこなくてですね。
伝え聞いた話では、彼の両親もその他親族も遺体を引き取りたがらなくて盛大に揉めてたとかなんとか。そんなこんなで葬儀は行われたんだかどうだかわからないし、お墓の場所もわたしたちには教えられなかったし。
そんな感じでわたしの高校時代の思い出はあまり後味がよろしくないのだった。
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