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「あ、猫だ」
はい、猫です。
シームレス転移で迷宮の外、銅版の台座の上に移動したわたしは、そこにいたジルドナート青年に拾い上げられた。
迷宮に入ったときもそうだったけど、転移が一瞬すぎて感慨を抱く隙もないし、身構える余裕も与えられずに瞬時に周囲がぱっと切り替わるの、頭がバグりそう。なんかこう、転移途中の謎空間とか不思議な圧力とか、そんな感じの軽ーいワンクッションとかあったほうがいまわたし転移してますって実感が得られていいのではなかろうかと思ったり思わなかったり。
台座の周囲を囲むようにして、迷宮に入る前と変わらず探索者な方々がわらわら集まっている。数人ずつ、おそらくは仲間同士で固まっているっぽい。オライセンさんとヴェルゼン様は台座から少し離れたところに二人でいて、なにやら話し合っているようだ。
「オーリ様はまだ中か?」
ジルドナート青年に目の高さまで持ち上げられてそう質問されたけど、訊かれても困るんだよね。にゃーとかみゃあとか鳴いてもジルドナート青年猫語わからないでしょー。それでも一応、質問には真面目に返事しておいたけど。イエス、オーリ君置いてきちゃったのでまだ中にいます、という思いを込めて「にゃおぅ」と一鳴き。ちゃんと質問に答えたからねわたし。猫の言ってることが理解できないのはそっちの問題だからわたし知ーらない。
と、台座の上、正確には台座の天面にある窪みにセットされた銅版がぼんやり光りだした。
「お、戻ってくる」
そう言いながらジルドナート青年は一歩下がって、台座から距離をとる。他の人たちも台座周辺のスペースを空けるように少しずつ動いていた。
ぼんやりとした光が放たれていたのは三、四秒ほどの間。そして唐突に光が消えて台座のすぐそばにオーリ君が出現していた。
……やっぱりになんかこう、この転移システム、もうちょっと演出方面に力を入れたほうがいいと思います。転移の合図で光るのはいいんだよ。そこはいいんだけど、徐々に光が強くなっていって、そんで一際強い光と同時に転移した人が出現とか、そういうわかりやすいベタな表現っていいと思うんだよね、わたし。いまのやつだと転移するときも転移した人を迎えるときも、それまでとはまったく違う場所に出現する、あるいはそれまで存在しなかった人間がいきなり現れるっていう大きな変化が起こるのが一瞬すぎて、なんというか、脳細胞が騙されているような気分になるというかー。
ていうか、転移するときの主観だとかかった時間はそれこそ一瞬以下って感じだったんだけど、でも転移してこられる側だとぼんやり光っている時間が三、四秒くらいあるんだ? 光が転移の合図だとすると数秒の猶予があるのは当然だ。台座周辺を空けて転移してきた人が現れるスペースを確保する必要もあるし。でも転移する本人的にはマジ一瞬でそんなに時間かかってないんだよね。じゃあ転移した際にわたしの数秒がどこかに消えてることに……? 謎だ。
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