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「自分もちょっと見てきましたがね、真っ暗で。要するにあれですね、新月の夜」
だから月夜画の最新作だと判断しました、と説明するオライセンさん。月が見えない新月も月の形の一つです、ということですか。
「入ったのか。――いままでの傾向からすると月夜画の銅版は他より面倒だろう。これはどうなのだ」
「いえ、すぐに出てきたので内部の魔物とは接触しておりませんで、なんとも……。暗いし、広そうだし、面倒なのは確実だろうとは思います」
……これ、入れるものなんだ? え、入るってどういうこと。なんかヴェルゼン様もオライセンさんも当たり前のように言ってるけど、ものは薄っぺらい銅の板に描かれた絵だよ。その中に? 入るの? 入れるの? マジで???
「構成変更前から迷宮に滞在していて取り残された探索者はいますか?」
オーリ君が訊ねる。
「いいえ。幸いなことに、中に滞在していた者は一人もおりませんでした。ですので要捜索者はなしです」
言いながら、オライセンさんは手に持った銅版を石製オブジェの台座に戻しかける。天面の凹みに銅版をセットするのが定位置であるらしい。が、会話のほうに意識がいってしまったためか中途半端なところで手が止まり、天面に対して角度七十度くらいの傾きのままで銅版は保持されている。
「現在、中へは?」
「十人ほど。転移地点付近の安全確認だけに専念するようにと指示を出しております」
頭の上で交わされる会話を半分聞き流しながら、わたしはオーリ君の腕から石のオブジェの上へ、ひょいと飛び移った。……まあ飛距離的にぎりぎりで、ひょいっていうほど楽々余裕~でもなかったけど。
もっと近くで銅版を見てみたかったんです。許可も得ずにほいほい近づくなんてこと、それもすぐそばでなんか真面目なお話してる最中にとか、普通ならダメなやつだけど、ほら、いまのわたしって可愛くてか弱い仔猫だから、多少のやんちゃは許されそうじゃないですか。
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